すべての花へそして君へ③
六回目の記念日-前編
もうすぐ、付き合って六年目。
さて、今年の記念日は何にしようか。
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サロンへと通されたわたしの、目の前に並べられた色取り取りのスイーツと香しい紅茶。
「……へー相談。葵が、僕にねえ……」
それらに舌鼓を打っていたのも束の間。斜め右側のソファーに深く腰掛ける彼は、優雅に紅茶を飲みながらチラリ。横目で訝しむようにこちらを見つめてくる。なんですか。わたしが相談とかしちゃいけないんですか。
「急を要するって言うから、急いで帰ってきてみたものの」
「……な、なんだよう」
「はあ。話を聞く前から結論が見えてる」
「え?」
「それ。相談する相手僕じゃないよね」
「え。なんでそう思うの……?」
「日向くんに、言いづらいことでしょ」
「……」
ほらね、やっぱりそうだった。そうでしょと言いたげに、彼は少し大袈裟に肩を竦めてみる。黙ってしまった時点でそうと言っているようなものだけど、まんまと見抜かれてしまったのも、なんだか悔しい。
「でもね、それだけじゃないんだ。タカトに相談したいことがあったのは本当」
「馬鹿。それを早く言えよ」
六年も経ってしまえば、遠慮や引け目や敬語なんかはどこへやら。本音も冗談も貶しでさえも、すっかり言い合える仲だ。
つんと拗ねていた様子から一変。前のめりになった彼は、覗き込むような恰好で首をわずかに傾げ先を促す。この狙い澄ましたような仕草で、一体何人の女を虜にしてきやがったんだかこいつは。
「……へえ。朝日向が新しい事業をねえ……」
一瞬僅かに眉を動かしただけで、別段それ以上驚いた様子もなく。「それで? それの何が言いづらいことなの?」とでも言いたげな、平然な顔をして彼は白衣に落ちてしまったお菓子の欠片を拾っていた。
「……驚かないの?」
「新事業のこと? それとも――」
“4月からの新事業立ち上げには、あおいにも参加してもらっていたからよく知ってると思うけど。その責任者を、お前に任せたい”
「その新事業を葵が任されたって話? 前者には少し驚かされたけど、後者に関して言えば一つも驚くことなんかないでしょ」
逆に勿体ない気もするけどね。
事も無げに紅茶に口をつける彼に、わたしは驚きと喜びを隠しきれないでいた。案の定、「変な顔だね」なんて言われたけども。