すべての花へそして君へ③

『心配なら、ちゃんと当事者に相談しなよ』

 タカトにアドバイスを受けた後日。彼に話した不安ごと、まずはヒナタくんに聞いてもらうことにした。


「ああ、その話ならオレも聞いたよ」

「えっ? お父さんに?」


 彼は一度だけ頷いて、晩酌をしながらその時を思い出すようにコップに口をつける。


「入社式の日だったかな。話があるって呼び出されて」

「……聞いてない」

「うん、ごめん。確定してるわけじゃないし、あんまり早くからこういうこと話すのもよくないかなと思って。改まってまた話しようとは思ってたから、黙ってたこと許してね」

「それは、もちろんいいけど……」


 口振りからして、わたしと父が話したこと以上の内容が、彼らの会話には含まれているらしかった。
 焼き魚に箸を入れながら、事も無げに彼は言い放つ。


「オレの“朝日向乗っ取り計画”には、いろいろ段階があるんだけどさ」

「……ごめん、ヒナタくん」

「突っ込む? 突っ込んだら話進まないけど……突っ込む?」

「……ごめん、先をどうぞ」


 言わんとしてることは何となく察するけど、計画名はちょっと変えた方がいいと思うよ。物騒だから。


「まあカナタさんと、これからの朝日向をどうしたいかって話を、今まで何回もしてきたんだけど」

「何回も……」

「あんたと、これからも一緒にいるつもりなら当然でしょ」

「……」


 離れるつもりは、わたしだってない。けど、いつかは話さないといけないことを、初めから受け止めた上で。初めから考えて行動するために、動いていてくれてたことが嬉しくて。
 恥ずかしさに少し俯くと、目の前からは「ご飯よりも先にあおいにすればよかった」なんて声が聞こえた。

 父とヒナタくんの話し合いは、主に父が、代表取締役の座を降りた後の話。まだ随分先の話にはなるが、いつかは来る話だった。


「そこの辺の話を、社長としたんだよ。オレがどう考えてるのかとか、社長はどう考えてるのかとか」


『あおいの方がそりゃ優秀だろうけど、もう少し父を立てておくれ』

 ――だから、まだ何も焦る必要はない。一番自分がしたいことを、一生懸命見付けなさい。


 あれから祖父とはそういう話をする機会は増えたけれど、そういえば父とは、一度も話題にすら出なかった。


「話しても大丈夫?」

「……うん。大丈夫」

「じゃあさっさと話すけど、カナタさんはオレに社長になって欲しいって言ってる」

「……うん。それで?」

「オレは、乗っ取る気は十分あったけど、正直社長って立場は最初から除外してた」

「え? なんで?」

「あんたがなるもんだと思ってたからね」

「……」


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