すべての花へそして君へ③
 素質で言うなら、オレや現社長より十分あるでしょと。
 お酒が入っているせいか、少し上機嫌で話す彼はいつもより笑顔が多い。


「初めはね、カナタさんもあおいを代表にするつもりだったんだよ」

「……そうなの?」

「それが変わったのは、本当につい最近じゃないかな。出席した会食に、海棠理事がいたんだって。そこで少し、あおいの話をしたらしい」

「……それって、もしかして……」


 じゃあ彼は、父に話をしたのだろう。
 わたしが、【朝日向初女社長への後援】という、卒業時に与えられた選択肢を受け取らなかったことを。


「悪いふうに考えてる?」

「……ううん、全然」


 やっぱり、そこは親子なのかな。そう聞いた時の父の考えが、手に取るようにわかるんだ。


「……そっか。ならよかった」


 嬉しそうにコップをこちら側に差し出してくる彼に、微笑み返しながらお酒を注ぎ足してあげた。


「もし代表に据えたとしても、ずっとは考えてないって」

「……そっか」

「あおいを一番上にしておいてみなよ。ハッキリ言って将来安泰でしょ朝日向」

「……そう言ってもらえるのは、素直に嬉しいかも」

「けど、そこで終わらせておくのもハッキリ言って勿体ないって」

「……そうかな?」

「代表として。上司として。そして一人の人間として。可能性に溢れた若者の将来を、狭めたくはない」

「……」

「って格好良く言ってるけど、代表も一人の父親。可愛い娘の夢を叶える手伝いを少しでもしたいっていう私情増し増し」

「え?」


 心当たりがあるそれに、目を瞠るわたしにただ彼は、やさしい声音でそっと言い聞かせた。


「代理から降ろして新事業の責任者に据えたのは、カナタさんにとって、結構苦渋の決断だったんだよ」

「……ヒナタくん、わたしが言う前からそこまで知ってたの?」

「うん。カナタさんから相談来たからね。『新事業の責任者を任せようと思ったんだけど、あおいからまだ返事がもらえてないんだよお』って。半泣きで」

「………………」

「さて。これで粗方話は済んだけど、オレも言っていいかな」

「……えっと、ですね」

「言うのが遅い」

「ひいっ! ごめんなさい!!」


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