すべての花へそして君へ③

六回目の記念日-後編

 ――――――…………
 ――――……


 ちゅんちゅんと、すずめが鳴いているのを聞いて、ああ朝が来たのかとゆっくり瞼を押し上げる。


「……今、何時……?」


 軋む身体を何とか動かし、ごろんと転がってみたところに見えた時計は、まだ6時にもなっていなかった。

 昨夜は、あのまま気絶するように寝落ちたから、何時間寝たのかはさっぱりわからない。体はダルいが今朝は喉がすごいカラカラだ。まだ少し早いけど、飲み物でも飲んでゆっくり朝ご飯の支度でもしよう。眠かったらまた二度寝しに来ればいいし。

 そう思って体を起こしたところでようやく、違和感に気付く。


「……あ、れ。ひなたくん?」


 隣で寝ているはずの彼の姿がない。彼も目が覚めて起きたのだろうかと、隣に手をそっと這わせてみるけれど、そこに彼のぬくもりはなかった。
 まさか、わたしと同じで早くに目が覚めて、朝ご飯まで作っちゃってくれているのだろうか。

 こうしちゃいられない!
 そう思って軋む体に鞭を打ち、立ち上がったところでもう一つの違和感に気が付く。


「……あれ。……ない」


 脱いだ服は疎か、部屋の中にあるクローゼットやタンスの中に、衣服らしきものが見当たらないのだ。

 ……もしかしたら、わたしはまだ夢でも見てるのかもしれない。
 そう思って振り返った時に、最後の違和感。部屋のドアノブに掛かる、純白のショーツ。


「犯人は恐らくヒナタくんなんだろうけど……」


 もしかしたらわたし、六年目にして最愛の彼氏にいじめを受けているのかもしれない。

 そんな馬鹿なと思いつつ、一旦パンツを履いて。シーツを体に纏ったら一先ず、自分の部屋に戻って着替えを取ってこよう。そんでもって、この仕打ちはどういうことですかって。犯人を問い詰めよう。

 苛立ちを込めて少し乱暴に扉を開けると、視界の端に何かが落ちているのを発見。
 廊下の突き当たり。わたしの部屋とは反対の、出窓と階段がある方に、ぽつんと置き去りになっている白い物体。あれってもしかして……。


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