すべての花へそして君へ③
随分待たされたにもかかわらず、それでも彼はどこかほっと安心したように優しく相好を崩していた。
一応、もう一度きちんと謝っておく。
「それはそうと。……これ」
頼んでおいたミックスジュースと、ツバサくん追加のカフェオレが来たところで、彼は机の端に重ねられた資料を指差した。
どうやら、机の上に広がっていた紙を集めてくれたらしい。
「あ、ごめんね。ありがとう集めてくれて」
それを鞄に収めていると、目の前から熱い視線がバシバシと飛んで来るのを感じた。
案の定、カップに口をつけた彼が、じーっとこちらを見ている。
「見て、いいものだったのか」
「見て、気分いいものではないだろうね」
「悪いけど、全部見たぞ」
「うん。だろうと思ってたから」
ちゅーっとジュースを飲んでいると、ポロンと一通のメールが届く。急ぎかと思い、断りを入れて内容を確認した。
「ふむふむ。じゃあ明日は遅出でも大丈夫そう……」
もう一度断りを入れ、その旨を連絡しておく。明日の朝ご飯は、久し振りに時間をかけて振る舞えそうだ。ミズカさんとヒイノさんとアイくんの好きなものを作ることにしよう。
「これでよし。ごめんねバタバタして」
「仕事でしょ。気にしなくていいわ」
「そうそう……って、あれ? なんか知ってる雰囲気?」
「詳しくは知らない」
「もしかして、詳しくなかったら知ってる? 今のわたしのこと」
「さあ。よくわかっていないから、結局は知らないのと一緒よ」
そうして鞄に収めた資料を指差しながら、彼はまた一口、カフェオレを飲んだ。
「言えない言いたくないことは絶対言わない。だから、無理して言わなくてもいいし、隠すのがつらいなんて思わなくていい」
「……ありがとう」
「だから、これからちょっとアタシに付き合いなさい」
「え?」
そう言ったかと思ったら、途中まで飲んでいたカフェオレを一気に飲み干してしまった。
「今からちょっと、ドライブするわよ」
「はい……?」
「あとな、ここ夜は8時までなんだよ」
「ええ!? ごっ、ごめんなさい!!」
わたしは慌ててミックスジュースを飲み干して、優しい店員さんに深く謝ったあと、逃げるようにお店を後にしたのだった。
「まさかツバサくん、バイクに乗れるなんて……」
「免許自体はだいぶ前にとってたけどな」
「人を乗せるのは初めてだけど……」そう言って彼は雑にヘルメットを放り投げてくる。そういえば、ドライブの話を切り出してから、目が合っていない。
「……照れてる?」
「早く被りなさい」
「あ! やっぱり照れてる!」
「うっさい。置いてくぞ」