すべての花へそして君へ③

「もう、本っ当信じらんない」


 言葉とは裏腹に、途轍もないところまで飛んで行ってしまったブーケを一緒に探してくれた新郎様は、素直じゃないけどやさしいやさしい、わたしの大好きな人。
 そんな彼と結婚して、子どもも授かって。まさかこうして、母や父とともに、素敵な結婚式を挙げられるとは、思ってもみなかった。


「ごめんごめん。……許して? ヒナタくん」


 けれど、それ以前に。二十歳を過ぎてなお。契約の名の下、名前を取り戻してなお。わたしがわたしとして、こうしていられること。もちろん、それはわたしを守るためのものだったのだけれど。

 どうしても。いつまで経っても。考えてしまうんだ。
 これは、やっぱり奇跡だったのではないか――と。


「結局、道端で拾ったロン毛のお兄さんに渡るとか。何それ。どんな落ち?」

「実は、お兄さんじゃなくて女の人って落ち~」

「は? マジで言ってる?」

「え。ヒナタくんこそ本気で言ってる?」

「え、うん」

「……ヒナタくん。それはダメだわ」

「………………」

「今度謝りに行く?」


「いや、道端で出会った人に、わざわざ勘違いを謝罪しに行く奴なんかいる? 多分あんたくらいだよ」と、言いつつも。ちょっと、流石に酷かったと思っているのか。「……もし、会うことがあれば言うかも」と、冷や汗を掻いたヒナタくんは、少しだけ申し訳なさそうに空を仰いだ。

 彼に倣って、同じように空を仰ぎ見る。眩しいそれは、まるでわたしたちに、祝福という名の光を浴びせてくれているような。そんな気がした。


「……ちょっとでも、お裾分けできてるといいね」

「ん?」


 あの、小さな花束が。彼女に、素敵な幸せをもたらしてくれますように。

 そんな祈りが少しでも届くように。顔の前で手を組み、そっとわたしは、目を閉じた。


「……あおい」


 こっちを見てと、髪を耳にかけた彼は、見えたこめかみに唇を寄せる。
 そして、耳元でこう囁くんだ。


「後で覚えといてって。さっき言ったこと。……もちろん覚えてるよね?」


 …………と。


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