すべての花へそして君へ③
再び満ちる、祝福の拍手。
(……あ、やっと音が聞こえた)
一粒、溜まった目元からこぼれ落ちていく。
わたし、こんな幸せでいいんだろうか。
「こんなのまだまだ序の口だから」
まるで、心の声が聞こえたように。ぶっきらぼうな声が、わたしの涙をそっと拭う。
「だから、これからもずっと一緒にいないと承知しないからね」
「……ふふっ。そっくりそのままお返ししますよ?」
だって、隣にいてくれさえすれば。
わたしとあなたは、誰よりも何よりも幸せ者なのでしょう?
――――――…………
――――……
「ふわあああ~……」
日が高く昇った頃。麗らかな春の日差しを浴びながら、青年はその口のように大きくポストを開ける。
「……遅すぎだから」
届いたポストカードに描かれていたのは、いつもの花の写真ではなく、晴れ姿に身を包み睦まじく寄り添う二人の姿。
【結婚しました!】
……って。籍はもう何年も前から入れてるだろうに。
「……そっか。今日だったか」
大きな文字でふざけた一言の後、数行に渡って近況や自分たちを気に掛けてくれているやさしい言葉が添えられていた。
「……何が届いていたんだ」
手元から抜き去るように、同年代の青年がポストカードを受け取る。すると、見る見るうちに顔から血の気が引いていく。
「おま、……馬鹿! 取り敢えず急げ!」
「何を?」
「馬鹿野郎! 行くんだよ今から馬鹿!」
「今更行ったところで……」
「いいから、さっさと支度をしろ!」と、同僚に急かされ渋々重い腰を上げる。働き詰めですっかり忘れていたのはお互い様だというのに、なんでこんなにも馬鹿馬鹿言われにゃならんのか。
「……」
二人に出会ってから早十年。彼らに出会っていなければ、きっと自分は、こんなふうに日の当たる場所を歩くことはできなかっただろう。
「……幸せの、お裾分けか……」
いい加減、分けなくていいから自分の幸せに使いなよって。言った言葉が何度『有り余ってるから大丈夫!』と返ってきただろう。
「……俺も、それができるよう頑張るよ」
着慣れないブランドもののちょっといいスーツに袖を通し、同僚とともに再び日の当たる場所へと駆けていく。
“顔出すだけでもいいから、来られそうだったら是非来て!”
――当日は、目一杯お裾分けしてあげるから!
「……おめでとう。あお、ひな兄ちゃん」
お裾分けは、もう十分してもらってるから。今日は、心からのお祝いと、二人の幸せそうな姿を目に焼き付けさせてもらうことにするよ。