すべての花へそして君へ③

 ――それは、本庁でのこと。


「可能であれば、そちらにも関わらせていただきたいんです」

「却下だ」

「何故でしょうか。今与えられた仕事に穴は空けません」

「そんなことは不可能だ。今の仕事さえ期限内に終わるとは限らんだろう」

「あれ? ボス、もしかしなくてもわたしの心配してくれてるんです? やさしい~!」

「面倒事は避けたい」


 ――わかっている。ただでさえ、仕事はまだ山のようにあるんだ。ボスが首を縦に振れないのも、頷ける。
 でも、それでもわたしはもう決めたから。やってやるって、絶対に叶えてやるって、誓ったから。


“……またいつの日か、許されるのなら。私の子どもたちを、この汚い腕で思い切り抱きしめてやりたいと、そう思うんだ”


 普通の人にとってはちっぽけでも、彼にとっては、大きな大きなその夢を。
 ――わたしがこの手で、叶えてあげたい。


「残念ですが、実はもうそっち方面も始めちゃってるんですよね。これが、今回の事件に関わった人たちの調書の一部です」

「……」

「やらせてくださいボス。彼の、彼らの希望を、わたしはまだ捨てたくない」

「……勝手にしろ。死んでも知らんぞ」

「死にません。……約束します」


 パチン――弾かれるような小さな音を立てて、最初の場面へと場所が切り替わる。
 右手にはやっぱり大きなぬくもりがあって、しゃがんだ彼は不安そうにこちらを見つめていた。


「アザミさん」

『……なんだい、あおいちゃん』


 夢と現実が入り交じるこの世界で、今のわたしにできること。


「アザミさんの手、すごくあったかいです」

『……』

「わたし、頑張ります」

『あおいちゃん……』

「頑張って頑張って、アザミさんの大切な夢、絶対叶えます」

『……私の、夢……』


 どこまで頑張れるかはわからない。なかったことにはきっと、できないだろうけれど。
 それでも必ず、あなたの夢を叶えてみせます。だからどうか、あなたも諦めないで。


「そしたら、頑張ったわたしにご褒美くださいね!」

『ん? ……ご褒美か。何がご希望かな?』

「んふふ~。それはですねー……」


 あなたのそのあたたかい腕で、わたしたちを抱きしめてください。
 そして、今度こそ、心から笑ってください。
 それがわたしの、最高のご褒美だから。


 ――――――…………
 ――――……

 ――――――…………
 ――――……


 いつしか止んだ雪風は、どこかから小さな花びらを運んでくれた。


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