すべての花へそして君へ③

 まるで、後ろから抱きしめられているみたいだった。窓がそこまで広くないから、ただ、後ろから覗いてくれてるだけなのに。
 なんだか、自分ばかりが疚しい気持ちになっていて、それが無性に恥ずかしくて仕方がなかった。


「こっち、向かないの」

「……えっと」


 窓際に置いていた手に、彼の大きな手が添えられる。もう片方は、ぎゅっとわたしを抱き締めて離さない。


「ひな」

「ねえ。送り狼って言葉、知ってる?」


 耳元で囁いた言葉は、全身から力と理性をいとも簡単に奪っていく。
 ゆっくりと振り返ると、鼻先が触れ合うくらい近い場所に、彼の顔があった。


「わかんなかった? それとも期待してた」

「あ、あの。ひなたくん……」

「なに?」

「……ま、窓。閉めてもいいですか」


 最後に残った理性の使いどころが間違ってたと、言い終わってから気付いた。
 そんなわたしに、彼はふっと優しく笑う。


「ここが田舎でよかったね」

「ひ、ひなたくん……」

「誰もいないし誰も見てないよ。まだ恥ずかしいのは目開けてるからじゃない? はい、ということで手伝ってあげる」

「え、ちょ、待って……」


「まだ、もう少し今日は味わわせて」そう言って、蕩けるようなキスで、彼は今夜も、わたしの唇を奪っていっ――


 ――コンコン。


「あおいさーん。まだ起きてま――ガタガタッ! ――うわお?!」

「やあアイくん。こんな時間に夜這いかい?」

「えっと、できるなら一回くらいしてみたいですけどね。違います。九条くん見てない? 部屋にもいないから、もしやと思って」

「ヒナタくん? いや、見てないけど。さっき別れたっきり」

「そうか。どこ行ったんだろ」

「もしかしたらお手洗いかも。実はさっき、お腹さすってたの見ちゃって」

「あらら、冷たいものでも飲み過ぎたのかな」

「暫くしたら部屋に戻ってると思うから、それまで今日もみんなの晩酌のお付き合いよろしくね」

「任せてください! それじゃあ夜分遅くにごめんね。おやすみなさい」


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