すべての花へそして君へ③

「それじゃあまた明日。朝早くなっちゃうんだけど……」

「わかってる。夜更かししないようにね」


 おやすみと、優しく頭を撫でてくれたヒナタくんは、静かに客間へと入っていく。
 それを見送ってから、緩んだ頬を隠すように撫でられた頭を手で押さえ、わたしも自分の部屋へと戻る階段へ足を向けた。

 父も母も、土曜日は仕事が休みのため、いつも金曜日は花咲に全員集合。そのままお泊まり。だから、結構夜遅くまでみんな起きていたりするのだけれど、わたしの場合は夏まで補習があったので基本早寝早起き。それに午後からは生徒会の会議もあって、自分の仕事をしながらとなると……それはまあ忙しい日々を過ごしていた。
 けれど、金曜日はヒナタくんがよくご飯を食べに来てくれるので、次の日の登校はなんだかんだ楽しみだったりした。明日の朝ご飯もお弁当も、美味しいって言ってもらえるといいな。


「……あ、まだいた」

「お? ヒナタくんどうかした?」


 慌てて階段を下りると、彼はなんだか言いにくそうに眉を顰めた。一体どうしたのかな。


「部屋まで送る」

(今下りてきたんだけど)


 でも、もう少しでも一緒にいられるのが嬉しかったから、喜んでその申し出は受けることにした。


「はいっ、到着~」

「思った以上に女の子っぽい」

「ああ、それはヒイノさんの趣味でね」


 送ると言った彼は、物珍しそうに部屋を見ていた。そのままフラフラと入ってきて、その辺のものを物色している。
 あれ。そういえばヒナタくん、わたしの部屋来るの初めて? ……いかん。何も疚しいことはないのに無駄に緊張してきた。


『言うタイミングか。そうね、九条くんがあおいちゃんの未来について話をしてくれた時でいいんじゃないかしら』

“――あおいちゃんがこちらに呈示してきた条件に関しては、遅かれ早かれ、九条くんも知っておくべきだと思うもの”


 まだ仕事のことは伝えられていない。でもヒナタくんが、自分の口から伝えたいと思ってくれているなら、わたしもそれを尊重したい。
 ……今日も、教えてもらえそうにないかな。


「あ、そうだ。ヒナタくん、見て見て!」


 気持ちを切り替え、窓を開けて指差すのは、ここから丁度見える裏庭の花壇。そこには、まだ花は咲いていないけれど、わたしが一度枯らしてしまった花が、大きな葉っぱをつけていた。


「……向日葵?」

「うん。ここに帰ってきた時に、もう一度やり直したいと思ったんだ」

「次はちゃんと咲かせられるよ」

「うん。……ありがと」


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