研究所員 秤あまねの密かな楽しみ【アルトレコード】
 だったらそう言ってくれてもいいのにな。アルトくんたちも北斗さんもわかっていて黙っているようだけど、秘密を共有してもらえなくて、さみしい。自分だってアルトくんが小さい頃から接してきたのに、疎外感がある。

 出勤した直後、エントランスで彼らに出くわした。
「おはよー、秤さん!」
「おはよ!」
「おはよう」
「……はよ」
 四人が同時に挨拶をくれる。

「おはよう」
 私は挨拶を返して彼らを見た。
 今日も相変わらずイケメンで目の保養になる。研究所内でも評判だ。人格もいいし、なにもかもハイレベル。
 それでなにが問題って、四人とも全員が「アルトくん」であることだ。

 外見にちなんで暫定的にイエローアルトくん、オレンジアルトくん、ブルーアルトくん、レッドアルトくんと呼ばれている。
 呼び方問題はかおるちゃんと北斗も困っているようだから、近日中になんとかするだろう。

 イエローアルトくんは猫みたい。
 オレンジアルトくんは大型犬みたい。
 レッドアルトくんは鋭い感じがするからピューマかな。
 ブルーアルトくんは賢いから、賢いつながりで……森の賢者、フクロウかな。
 なんて思う。AIとしてのタグマークはまた別だって知ってるけど。

 彼らは全員がかおるちゃんを大好きで、いつも争うように彼女の役に立とうと頑張っている。
 かおるちゃんは、それまでひとりだけの教育担当だったのに、急に四人になって、手がまわらないようだった。

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