野いちご源氏物語 二六 常夏(とこなつ)
お帰りになる内大臣(ないだいじん)様には、立派な貴族たちがお(とも)をしている。
近江(おうみ)(きみ)はそれをお見送りして、双六(すごろく)相手の女房(にょうぼう)に自慢なさるの。
「なんてご立派な父君(ちちぎみ)かしら。あんな方のお子なのに、粗末(そまつ)な家で生まれ育ってしまったこと」
女房は冷めた目をしている。
「あまりにご立派で気が引けます。もう少しご身分は低くても、大切にかわいがってくださる父君の方がようございました」
「そなたはいつでも私の言うことに反対する。失礼よ。もう昔みたいな友達気分で話さないでちょうだい。今に私は出世するのだから」
ぷんすか怒っていらっしゃるお顔は、親しみやすくて愛嬌(あいきょう)がおありなの。
そこだけ拝見すれば、かわいらしいような感じがしなくもない。

この姫君は、庶民(しょみん)のなかでお育ちになってしまったことがご不運だった。
上品な話し方というものをご存じない。
なんてことのない一言(ひとこと)でも、ゆっくり静かに話せば、なんとなくよいことを言っているような感じになるでしょう?
逆にどれほど立派なことを言ったって、それが(かん)(だか)い声の早口だと聞けたものではない。

きっとお育てしたのが気の弱い乳母(めのと)で、姫君のわがままを許していたのでしょうね。
早口で(なま)りが混ざっていて、それと同じようにご態度もがさつでいらっしゃる。
本来お持ちになっているはずのよいところがかき消されてしまっているの。
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