野いちご源氏物語 二六 常夏(とこなつ)
父君(ちちぎみ)が『女御(にょうご)様のお部屋に上がりなさい』とおっしゃったのだから、ぐずぐずしていたら無礼(ぶれい)(もの)だと思われてしまう。夜になったら参りましょう。父君がどれほど大切に思ってくださったとしても、ご家族の方々に冷たくされたら、このお屋敷にはいられないもの」
危機(きき)(かん)がおありになるのかならないのか、どちらなのかしら。

まずお手紙をお書きになった。
「今夜そちらに上がらせていただきます。やっとお目にかかれてうれしゅうございます」というだけの内容なのだけれど、有名な和歌(わか)をあれもこれも引用して、長々とお書きになった。
筆跡(ひっせき)は堅苦しく独特で、ご本人は気取ったつもりなのかしら、不気味(ぶきみ)な感じがするの。
書き終えると姫君は満足そうにうなずいて、そこは女性らしく細く小さく結んで撫子(なでしこ)の花におつけになった。
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