野いちご源氏物語 二六 常夏(とこなつ)
お手紙を預かったお使いは、女御(にょうご)様の女房(にょうぼう)たちの(ひか)え室へ持っていったわ。
「これを女御様にさしあげてください」
と言う。
女房が女御様にお手紙をお見せした。
女御様は苦笑なさって、そっとお手紙をお置きになる。

近くでお仕えしていた女房がちらりと拝見した。
「何やら現代風のお手紙でございますね」
と見たそうにしているので、女御様はお許しになる。
「難しい文字は見慣れないせいか、私には文の意味が取りづらくて。返事もこんなふうに書かなければ教養がないと思われてしまうだろう。そなたが書いておやりなさい」
お返事は女房にお(まか)せになるの。
他の女房たちもお手紙を見て、くすくす笑っている。

「これでもかというほど知識を見せつけるお手紙なんて難しゅうございます」
任された女房は大げさに悩む。
「いかにも代筆(だいひつ)のお手紙はお気の毒でございますし」
と言って、地名づくしの文章を練っているわ。
姫君のお手紙と同じく意味は通じないけれど、「待っている」ことだけは伝わるような絶妙(ぜつみょう)なお返事を書き上げた。

「そんな返事を返したら困る。私からの手紙だと言いふらされたらどうするのです」
女御様はお嫌がりになる。
「どなたもお信じになりませんよ」
女房はさっさと紙に包むと姫君からのお使いに渡してしまった。

姫君はお返事を読んでおよろこびになる。
「すばらしいお手紙だこと。「待つ」と書いてあるわ」
張り切って身支度(みじたく)なさるの。
甘すぎて品のない香りをお着物に()きしめて、頬紅(ほおべに)を真っ赤につけ、お(ぐし)をとかす。
にぎやかで愛嬌(あいきょう)があると言えなくもない。
女御様とのご対面は、無事には終わらなかったでしょうね。
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