野いちご源氏物語 二六 常夏(とこなつ)
女房(にょうぼう)たちが近くにいるので、いつものように不届(ふとど)きなことはおっしゃれない。
「今日の若者たちは、あなたの気配(けはい)も感じられずに帰っていきましたね。内大臣(ないだいじん)にはなるべく早く会わせてあげたいと思っているのですよ。人の命などいつ終わるか分からないのですから。まだ私が十代だったころ、内大臣が昔話をしてくれたのです。あなたの母君(ははぎみ)との悲しい恋のお話です。昨日のことのように思い出される。しかしあなたにお会わせしたら、内大臣は母君のことをお尋ねになるだろう。それが困るから、なかなか言い出せないのです」

姫君はお泣きになる。
「母は身分の低い人だったと聞いています。父君もいまさら問題になさいませんでしょう」
源氏の君を(なぐさ)めるようなことをおっしゃるので、また恋心が騒ぎはじめてしまう。
<いっそ探し出せないままの方がよかったかもしれない>
とお苦しみになる。
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