野いちご源氏物語 二六 常夏(とこなつ)
内大臣(ないだいじん)様が新しくお引き取りになった姫君(ひめぎみ)は、やはり残念な方でいらっしゃるみたい。
お仕えしている人たちは、
<これが内大臣(ないだいじん)()の姫君とは思えない>
とあきれている。
うっかり引き取ってしまった内大臣様まで世間から非難(ひなん)されていらっしゃるわ。

「先日六条(ろくじょう)(いん)に参りましたが、源氏(げんじ)(きみ)もすでにこの姫君のことをご存じでした」
あのときのご子息(しそく)が内大臣様にご報告なさる。
源氏の君が皮肉(ひにく)をおっしゃっていたこともね。
「お(さっ)しのとおり出来(でき)の悪い娘だよ。長年行方(ゆくえ)()れずだった田舎(いなか)育ちの娘を引き取って、ごたいそうに姫君らしく(あつか)っているが、とても見られたものではない。しかし、普段悪口などおっしゃらない源氏の君が、我が家のことは敏感(びんかん)に反応してけなされる。それだけ私を認めていらっしゃるということだろう」
内大臣様は強気(つよき)にお笑いになった。

「源氏の君が六条の院にお引き取りになった姫君は、なかなかよい女性でいらっしゃるようです。兵部卿(ひょうぶきょう)(みや)様などが熱心に求婚なさっているとか。(なみ)大抵(たいてい)の人ではないのだろうと、世間も(うわさ)しています」

「それは源氏の君の娘だと思うからだろう。世間はそんなものだ。実際はそれほど優れているわけでもあるまい。第一、身分の高い母親が生んだ娘ならば、もっと早くに存在が知られているはずだろう。
源氏の君は何もかも恵まれた方だが、立派な女性のところに姫君が生まれなかった。お悔しいだろうよ。文句のつけどころのない姫君を大切にお育てになりたかっただろうに。
お子が若君(わかぎみ)明石(あかし)の姫君だけでは、何かあったときに困るとお考えなのももっともだ。明石の姫君はいずれ中宮(ちゅうぐう)におなりになるだろうがね。運命を感じさせるお生まれだし、母親の身分は低くても今は立派な養母(ようぼ)に育てられていらっしゃるのだから。
新しく引き取られた姫君は、もしかすると(じつ)のお子でない可能性さえある。何か(たくら)んでいらっしゃるのかもしれない」
ずいぶんと源氏の君を悪くおっしゃる。

「どなたを婿(むこ)になさるおつもりかな。やはり兵部卿の宮様だろうか。もともとご兄弟のなかでとくに仲のよい方だし、婿(むこ)(しゅうと)としてもうまくやっていかれるだろう」
そうお思いになるにつけても雲居(くもい)(かり)のことが残念でいらっしゃる。
<たくさんの求婚者を集めて、誰を婿にするか世間の注目を集めたかった>
とお思いなの。

<若君のご身分がまだ低すぎる。源氏の君が下手(したて)に出て頼み込んでくれば、『仕方なく』というふりで許してもいいけれど>
若君が平気なお顔をなさっているのも(にく)らしくていらっしゃる。
< 7 / 14 >

この作品をシェア

pagetop