男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される

(さすがに遅くなっちゃったな)

 結局2時間くらい外出していたかもしれない。
 私は少しの焦りを覚えつつ、寄宿舎の長く暗い廊下をなるべく足音を立てずに進んでいた。
 一応イリアスに気付かれたときの言い訳は色々と考えてあるけれど、それでもやっぱり気が急いた。


 ――このときの私はまだ気付いていなかった。

 キスで動揺し過ぎて、自分がいつもは絶対にしないミスをやらかしていることに。


 自分の部屋まであと少し、というときだった。

「!」

 その何部屋か手前の扉が、ギィと音を立てて開いた。

(誰だ?)

 緊張を覚える。
 暗くてどの部屋の扉かよくわからない。
 が、しかし、こういうときの対応もちゃんと考えてあるので慌てなくて大丈夫だ。
 そう自分に言い聞かせ、私はそのまま平然と廊下を進んだ。
 そして、開いた部屋から出てきた人物は。

「ザフィーリ」
「!?」
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