男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される
「それが……彼女は僕に何か話しかけてくれたようだったのに、あろうことか、そのとき僕は耳栓をしていたんだよ」
「!」
「僕は静かでないと眠れない性質でね、就寝時はいつも耳栓をしているんだ。だから、彼女の声を聴くことは叶わなかった」
ザフィーリはがっくりと項垂れた。
「……まぁ、聞こえていたとしてもあのときの僕にまともな会話が出来たとは思えないけれどね」
「それは、残念だったな」
そう同情するように言いながら、心の中では「セーフ!」と両手を大きく広げていた。
……しかし、まだ危機を脱したわけではない。
「でもさ、本当にそれ現実だったのか? お前が見た夢だったんじゃ」
「それはない」
苦笑しながら言うと、きっぱりと否定されてしまった。
「そのまま僕は一睡もできず、朝まで起きていたんだからね」
「そ、そっか。でも、この寄宿舎でそんな女見たことないしなぁ」
「……それは本当かい?」
「え?」
彼はメガネの位置をカチリと直し続けた。
「先ほど僕は彼女は去っていってしまったと言ったけれど、僕にはね、彼女は君らの部屋に入っていったように見えたんだ」
「っ!」
どっと冷や汗が出た。
やはり、そこはばっちり見られていたようだ。