ラストランデヴー
「私もターコイズブルーの傘を持っていました。だけどそれは高校生のころです」

「そう。みどりはまだ高校生だった。俺は大人っぽい雰囲気の君を同じ大学の学生だと頭から決めつけてた。あれからずっと君を探していたけど、見つかるはずもない。俺がようやく勘違いに気がついたのは1年前、あの夜だった」


 思い出の中に埋もれていた、古い、たった数分間の記憶が私の中で鮮明に再生される。


 大学教員である父の研究室に忘れ物を届けた雨の日、突然背の高い大学生が「駅まで傘に入れてほしい」と話しかけてきた。

 私は「いいですよ」と返事をしてから、その人の顔を見て慌てた。

 あまりにも整った顔立ちで、心臓が胸から飛び出してきそうなほど驚いてしまったのだ。

 かっこいい男性が間近にいることで極度に緊張してしまった私は、駅までの道のりで彼と何を話したのか、まったく覚えていない。

 たぶんほとんど口を利かなかったのだと思う。それに恥ずかしくて彼の顔をまともに見ることができなかったのだ。

 ふと我に返る。

 課長として赴任した直後、驚いたように私を見つめる彼の瞳――。


「そんな……私、勘違いしてた……の?」


「勘違い?」

 言ってから、ハッとして口に手をあてがったが、もう遅い。

 田島部長は不思議そうな表情で私を見つめている。

「部長が私を変な目で見ているのは気がついていましたが、それは私が部長の前の奥さんに似ているせいなのかと……」

「変な目って、ひどいな。それにみどりを誰かと重ねたことなんかない。俺は一途にみどりを好きでいるのに、部下に手を出さずにいられないエロオヤジみたいに言うし」

「そこまでは言ってません。それにバツイチの男性に一途だなんて言われたくありません」

 突然、繋いでいた手が離された。
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