ラストランデヴー
 まさか上司に恋をするとは思わなかった。

 社内恋愛が禁止されている職場ではないが、できれば彼氏は社外で探したいというのが私のスタンスだった。実際私は頑固にそれを貫いていた。

 なのに、どうしてあんなことになったのだろう。眼下に広がる夜景を眺めながら、約1年前の出来事を思い返す。

「みどりのほうからメールをくれるなんて驚いたよ」

 真横に座る田島部長がそう言った。

 私は彼の顔を見ずに笑う。

 どうせ私のことなんか忘れていたんでしょう。そう言ってしまうことは簡単だけど、今は言わないでおく。

「ごめん。ずっと連絡しようと思っていたんだ」

 横面に田島部長の視線を感じるが、私は背筋を伸ばしてじっと前を向いていた。

 ここで彼と初めてデートをしたのが約1年前。

 高層ホテルの最上階にあるバーに誘われるなんてロマンティックなシチュエーションは、過去の恋愛にないものだったから、彼の特別な女性として扱われているようで、本当はものすごく嬉しかった。

 だけど1年前の私も、今と同じように押し黙って、ただぼんやりと夜景を眺めていた。

 緊張と興奮で粗相をしでかさないかと心配だったのだ。
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