ラストランデヴー
「責められるのかと思っていたんだけど……」

 何も言わない私に焦れたのか、田島部長はひとりごとのようにつぶやく。さすがに私も彼が気の毒になった。

「部長になられてからますますお忙しいご様子ですし、メールも迷惑かと思ったのですが……」

「おいおい、敬語はやめてほしいな。ここは職場じゃないし。それより『話したいこと』って何?」

 私はようやく夜景から目を離し、田島部長の顔を見た。

 胸がドキッと音を立てる。彼の憂いを帯びた眼差しはいつも一瞬で私の心を奪っていく。

 決心が揺らいだ。

 彼の瞳を覗き込むと、彼もじっと私を見つめてくる。

 男性にしては切れ長の目が長い睫毛に縁取られていてとても美しい。見つめていると時が経つのを忘れてしまいそうだ。

 しかし突然、目の端に点滅する赤い光を見つけた。

 夜景が私に警告する。彼の瞳に映るお前はもう色あせているのだ――と。

「松本さんとはうまくいっているみたいですね」

「えっ?」

 笑みを浮かべてそのセリフを放った途端、田島部長は顔色を変えた。

 落胆する心を悟られないように、私はもっと大げさに頬の筋肉を緩める。
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