兄の仇にキレ散らかしたら、惚れられたんですけど!?

第3話『放課後、私の帰り道をついてくるって何事!?』

朝、教室に入ると、なぜかクラスメイトの視線がちらりと集まった。
別に変な格好をしてきたわけでもないし、顔に寝ぐせがついてるわけでもない。
でも、何かが“ざわついている”のは確かだった。

「……?」

疑問を抱きながら自分の席につく。
机にカバンを置こうとして、玲那の動きが止まった。

そこには、一枚の紙切れ。

明らかに誰かが、彼女の机の中に入れていったもの。

(まさか……ラブレター……?いや、まさか……)

恐る恐るその紙を引き出し、広げる。

【放課後、裏庭で待ってる。――黒崎】

「……………………」

思考が、一瞬でフリーズした。

そして――

「はああああああああ!?!?!?!?!?」

朝の静寂を切り裂く、椎名玲那の絶叫。

近くの女子たちが「何?どうしたの!?」と駆け寄ってくるが、玲那は顔を真っ赤にして紙をぐしゃぐしゃに丸めた。

(なんで!?どうして!?なんで私の机知ってんの!?!?)

怒りと困惑と羞恥心で頭がグラグラする。
机を私物化するな。告知するな。しかも名前入りって何!??

(誰が行くか、そんなとこ。放課後は即帰宅一択!!)

強く誓ったその日の授業中。
なんだかずっと、背中に視線を感じていたのは……気のせいじゃないと思う。



放課後。

誰よりも早く、昇降口に向かった。
靴を素早く履き、逃げるように下駄箱を閉める。

(よし、逃げ切った。裏庭なんて知らんふりして帰る)

そう思って歩き出した瞬間――

「やっぱ来ないと思って、迎えに来た」

「っ!?」

背後から、不意に聞こえた声。
息を呑んで振り返ると、壁に寄りかかる蓮の姿。

制服のボタンは3つほど外れ、ネクタイはポケットの中。
そのくせシャツの裾をふわりと揺らすほどの無造作さで、にやりと笑っていた。

「なっ……なんでここに……!」

「お前が逃げるの、読んでた。だから、出口で待機」

「ストーカーじゃん!!!!」

「お前のことになると、動きが読みやすくて助かるわ」

「バカにしてんの!?!?!?」

「褒めてんだよ、可愛いって」

「しね!!!!」

玲那の叫びは完全に“癖”になりつつあった。



そのまま逃げるように歩き出したが、
当然のように隣を歩いてくる蓮。

「ついてくんな!!」

「一緒に下校とか、青春だな」

「気持ち悪いこと言うな!!!」

「気持ちは正直だぞ?」

「うっざ!!!!!!!」

途中、角を曲がるとき――玲那は内心ため息をついた。

(何この状況。マジ意味わかんない。仇なのに、先輩で、やたら距離近くて……)

そんな考えを振り払うように歩道橋に差し掛かる。
歩道橋の下を通って、信号に差しかかろうとした、その時だった。

目の端に、車のライト。

「危ない」

ぐいっと、腕を引かれた。

「っ……!」

驚いて足が止まり、すぐ隣に蓮の姿。
彼の手が、自分の手首をしっかりと掴んでいた。

目の前を、車が勢いよく通り過ぎていく。

「信号、点滅してた。
 お前、前しか見てなかったな」

「…………」

蓮の手、意外と熱い。
男の人の体温だ。
指先からじわじわ伝わってくる温度に、なぜか心臓が高鳴った。

「……別に、お前が俺をどう思っててもいい。
 でも、死ぬとこ見たくねぇんだよ」

玲那は、言葉を失った。

なんで?
なんでそんなこと言うの?

「……だったら……最初から近づくなってば……」

かろうじてそれだけ返すと、蓮はふっと笑った。

「無理」

「……っ、はあ!?!?」

「お前が好きだから。もう止まれねぇし、止まる気もない」

「~~~~~~っっ!!!!!!」

顔が熱い。

なにそれ、なにその直球。
まっすぐすぎて、思考が吹き飛ぶ。

「ふざけんなああああああああああ!!!!」

精一杯叫んで、走り出す。

「玲那、信号!ちゃんと見ろよー!」

後ろから、飄々とした声。

ふざけんな、
なんなの、
なんでそんな顔するの。

(……なのに、なんであたし……ちょっと、ドキッとしてんのよ……)

答えの出ないまま、玲那は夕暮れの道を走り抜けた。
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