『脆い絆』
10 ◇安心して大船に乗ったつもりで


出て行けと言われた翌日から週末までの3日間、私は家でも職場でも
暗い気持ちで過ごした。


そんな状況の中金曜の昼食時、工場の社長北山涼(きたやまりょう)さんの
妹である珠代さんから気遣いの言葉を掛けられた。



「温子さん、珍しいわね。
いつも元気溌剌の温子さんが元気ないなんて」

「私っていつもそんなに元気かな……」

「何かあったの?」

私は家のことで悩んでいたのに、すっかりそのことを失念していたことに
彼女に声掛けされたことで思い出した。


「そうだ、珠代さん、工場の寮ってまだ空きってあるのかしら?」

「えっと、どうだったかしら。調べておくわね」

「申し訳ないんですけど、急いでるの」

「それって、どなたが探しているの?」

『えっ』一瞬怯んだけれど今話を濁して隠していても入る時に分かること
だし、口の固い珠代さんが相手なのだからと今までの経緯を簡単に掻い摘んで話をした。

「妹さんが嫁ぎ先から帰って来たという話は聞いていたけれど……
そんなことになっていただなんて流石の温子さんだって凹むわよね。
温子さん、私、すぐに調べてあげる。
んでね、空きがなかったら誰かひとり追い出すか、どこかで住める
部屋探すから、安心して大船に乗ったつもりでいて。

2~3日で出て行かなくちゃいけないなんて、他人様の親を悪く言いたくないけど
お給金の大半を入れてきた娘に言うことじゃないと思うわ。

温子さんのお母さんたちは毎月のお金がもう入ってこないこと、気付いて
いるのかしら?」
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