『脆い絆』
51 ◇絹の想い  

絹が敢えて―――― 涼の過去の周囲(両親)の理解が得られず、好きな女性と
別れてしまった話を温子にしたのは、『自分なんて……』と卑下する彼女に、
涼にも婚約寸前の彼女がいたこと、だが家柄や財産の格差でふたりの結婚を親に
反対され、会社のト ップに立つという重責を抱えている涼が泣く泣くその結婚を
諦めたこともあり、今まで涼だって何もなかったというわけではない。

だからお互い様のところはあるのだから自分を卑下せず、涼と幸せになって
ほしいのだという想いからだった。


世間からしてみれば、お互い様(・・・・)という言葉がまったく通用する
ようなものではないことくらい、そしてかなりこじつけであることも、
絹にだって分かっている。


だけど、どうしても温子の気持ちを前向きにさせてふたりには幸せになって
もらいたかったのだ。

それでそういう想いを込めて捻り出した言葉だったのだ。



自分の意図するところがどれくらい温子に伝わったかは分からないが、
彼女の本当の気持ちを多少なりとも引き出せたのではないかと絹は思った。



          ◇ ◇ ◇ ◇


さてと、また畑の仕事を作り彼らに手伝いと称して交流の場を提供しなくちゃ
と張り切っていたのだが数日後、買い物へ出掛けた折に、よろけてコケて
しまい絹は脚を骨折してしまった。

荷物を持っていたため地面にぶつかる瞬間両手で身体を庇うことは叶わず、
しかし地面へとダイブする瞬間かろうじて片手で支えることができ、首から
上に損傷を負うことはどうにか免れた。

このことは、不幸中の幸いだったといえるだろう。

そして同じように買い出しに出掛けていた寮の人間が通りがかり手助けされながら
なんとか工場内に辿りつけたのだった。

すぐに寮に住まう看護婦の温子に連絡がいき、往診に来てくれる医師に
連絡。

医師が早急に応急処置をした(のち)、後日病院へ行き専門医に
診てもらうという手はずを整えてくれた。

結局涼の勧めで大事をとって、1週間の入院生活となった。

この間、同僚はもちろんのこと本当に温子や涼には世話になり、
有難さが胸に染み入る絹だった。

添木をあてられ脚の状態もおちついた頃、涼が病室へと見舞いに顔を
見せてくれた時のこと。

もうしばらくふたりを畑仕事にも誘えない。

だから今がチャンスとばかりに、絹は病院の手配(紹介)などのお礼を
述べたあと、涼に温子のことをアピールするべく話を始めた。




    ――――― シナリオ風 ―――――



〇(回想): 工場/寮で先ほどの畑での温子との会話に思いを巡らせる。夜

   絹は「わたしなんて……」と謙遜する温子に涼のことを結婚相手に
   どうかと、再度勧める。

   温子の気持ちをほぐすために、涼の昔の実らなかった悲しい恋愛の結末 
   のことを話す。 

絹(N)「当初とても自分など身に過ぎた話……と辞退しようとした温子に
 『考えてみたい』という気持ちにさせることができ、ほっとする」
 (回想終わり)
 
   数日後、絹は脚を骨折。
   周囲の協力の元、入院。

〇絹の入院先 病室 

   見舞いに来た涼の顔を見るなり、温子のことをモープッシュ
   するのだった。


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