『脆い絆』
52 ◇猛プッシュ

「絹さん、調子はどうだい?」

「お蔭さまで、病院に入院までさせてもらって……この度はほんとに
ありがとうございました。私は運がいいのだなぁとつくづく今回のことで
そう思いましたよ」

「へぇ~、どんなふうに?  よかったら教えてくれませんか」


「まず、コケてすぐに知り合いが駆け寄ってくれて、工場の敷地まで辿り
着けて、その人が温子さんを呼んできてくれて……。

そうしたらすぐに温子さんが往診の先生を呼んでくれて、その間にも温子さんが
励ましてくれて私はぜんぜん不安なんて感じませんでしたよ。

そんでもって往診の先生に診てもらったあと、りっぱな病院で診てもらえて
その上涼さんが1週間も入院までできるように手配してくれて……ほんとに
有難いことです」

「ははっ、絹さんの人徳ですよ、きっとそれ」

「そうですかね。普段から行いがいいからですよね、なんちゃって」

「「ははっ」」

「温子さんってほんとに優しくてテキパキとしていて素敵な女性(ひと)
ですね。今までも私はそう思ってましたけど今回のことで更にそう思うようになりました」

「そうですね。料理は上手いし」

「彼女は器量良しな上に、学校も出て職業婦人として勤めていてその上働き者で
あんな親切な人いないですよ。私が男だったら絶対嫁に貰いますよ」

「すごいなぁ~。絹さんは彼女のことべた惚れなんだ」

「涼さん、他人事のように言ってる場合じゃないですよ。涼さんのような
男前で頭脳明晰でお金持ちな人から結婚を申し込まれて断わる女性(ひと)なんて
いないんですから……頑張って温子さんをぜひ奥様になさいませ」

「いきなりすごいパンチを繰り出してくるのですね。
参ったなぁ~ははっ~」

見舞いに来てからの突然の『温子さんをぜひ奥様になさいませ』発言に
戸惑うばかりの涼なのだった。



    ――――― シナリオ風 ―――――


〇絹の病室(昼下がり)
   病室には西日が差し込み、窓際の花瓶に小さな菊が飾られている。
   絹は添木をあてた足をベッドに伸ばし、涼が見舞いに訪れる。

涼「絹さん、調子はどうだい?」

絹(にこやかに)
「お蔭さまで、こうして病院に入院までさせてもらって……この度は本当にあ 
 りがとうございました。
 私は運がいいのだなぁと、つくづく今回のことでそう思いましたよ」

涼「へぇ〜、どんなふうに?
 よかったら教えてくれませんか」


絹「まずね、コケてすぐに知り合いが駆け寄ってくれて、工場まで連れてきて  
 くれて……。
 それから、その人が温子さんを呼んできてくれたのですよ」


絹(続けて)
「そうしたら、すぐに温子さんが往診の先生を呼んでくれて、その間も励まし
 てくれて……私はぜんぜん不安なんて感じませんでしたよ。
 それから立派な病院を紹介していただいて……涼さんのお力添えで、こうし 
 て1週間も入院できるように手配していただいて……本当に有難いことで
 す」

涼(微笑んで)「ははっ、絹さんの人徳ですよ、きっとそれ」

絹「そうですかね。
 普段から行いがいいからですかね……なんちゃって」

   ふたり、軽く笑う。

絹の熱弁(絹は少し身を乗り出し、声に熱がこもる)


「温子さんって、本当に優しくて、テキパキしていて、素敵な女性ですね。
 今までもそう思ってましたけど、今回のことでさらにそう思うようになりま
 した。」

涼「そうですね。料理も上手いし」


「器量よし、学もあり、職業婦人として立派に勤めておられる。
 しかも働き者で、あんな親切な人はいませんよ。
 ……私が男だったら、絶対嫁に貰いますよ」


絹(続けて真顔で)
「涼さん、他人事みたいに言ってる場合じゃないですよ。
 涼さんのような男前で、頭脳明晰で、お金持ちな方から結婚を申し込まれて 
 断る女性なんて……まずいません。
 ……ぜひ温子さんを、奥様になさいませ」

涼(驚き、少し後ずさる)
「いきなりすごいパンチを繰り出してくるのですね。
 参ったなぁ……ははっ。」

   涼、笑いつつも目が泳ぐ。
   絹は満足げに微笑んでいる。
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