『脆い絆』
96 ◇秀雄の意図



雅代の両親は雅代と哲司が時々会って親しくしていたので、よもやふたりの
間で結婚話が出た上に、別れてしまったことも知らずにいたため、北山家から
娘の入院を知らされた時、すぐに哲司へと手紙で連絡をした。

そして、何と偶然にもその翌日に秀雄が訪ねてきたため、秀雄にも雅代が
入院したことと入院先を伝えたのだった。


その時には何も言わなかった雅代の父親がポロっと口にする。

「哲司くんと秀雄くんが鉢合わせしたらまずかないか?
秀雄くんが訪ねてきたのは2回目じゃないか。
雅代から聞いたけど、秀雄くんのおかあさんが急死したらしいから
雅代に復縁でも迫ってるんじゃないのか?」

「雅代がそう言ったんですか?」

「いや、雅代から聞いたのはあちらのお義母さんが亡くなったんだという話を
秀雄くんから聞いたっていう話だな」

「でも、あちらのお義母さんが亡くなった途端、雅代に会いに来るっていうこと
は、あなたのいう通りかもしれませんね」

「やっぱり、そう思うだろ?」

「ふたりが鉢合わせなんてしますかね?」

「どうだろうね。ま、その時はその時だな。会う本人たちがどうにかするさ」

「そうよね。どうしようもないもの……わたしたちには」



            ◇ ◇ ◇ ◇



秀雄は、復縁を申し入れたあの日から、色よい返事の手紙を心待ちにしていた。

だが、1か月待っても2か月待っても届かず、業を煮やしてとうとう訪ねて行って
みると、工場で倒れて入院しているというではないか。


その先を聞きたかったが、訪ねた先の人物はそれ以上のことは教えてくれなかった。

こちらが聞けば教えてくれたかもしれぬが、それには自分がどういった立場なのか
ということも話さなければならず、どうしようかとしばし逡巡したものの秀雄は
雅代の実家に出向いて聞くことのほうを選んだのであった。










        
        ――――― シナリオ風 ―――――

〇雅代の実家/大川家・居間

   雨戸を打つ風の音。
   父と母が卓を挟んで座っている。



   雅代の両親は、北山家から娘の入院を知らされた。
   哲司との仲も知らぬまま、すぐに哲司へと手紙で知らせた。

   そして偶然にも、その翌日――元夫の秀雄が大川家を訪ねてきた。


〇雅代の実家/大川家・玄関

   秀雄が挨拶をし、出て来た母親と対面。


秀雄「ご無沙汰しております。
   雅代さんはいらっしゃいますか?」

母「実は……雅代が工場で倒れて、入院しているんです」

秀雄「……えっ」


   言葉を失う秀雄。
   入院先を聞き秀雄はそのまま辞する。



   秀雄とのやり取りを終えて居間に戻ってきた妻に――――。

   雅代の父親がぼそりと口を開く。

父親
「……哲司くんと秀雄くん、鉢合わせたりしたらまずかないか?
 秀雄くんはこれで二度目だろう。おまけに、急におかあさんが亡くなった
そうじゃないか。復縁でも迫ってるんじゃないのか?」

母親「雅代が……そう言ったんですか?」

父親
「いや。雅代から聞いたのは、お義母さんが亡くなったって話を、秀雄くんか 
 ら聞いた――ってことだけだ」


「でもね。義母さんが亡くなった途端に訪ねてくるなんて……あなたの言う通 
 りかもしれないわね」

父「だろう? まあ、鉢合わせしたらしたで……本人たちがどうにかするさ」

母「そうよね。私たちには、どうしようもないもの……」



   ◇秀雄の言動の理由


(N)「秀雄は復縁を申し入れてから、返事を心待ちにしていた。
   だが一月経っても、二月経っても返事が来ない。

  業を煮やして工場を訪ねてみれば……“雅代は入院している”と聞かされる 
  のみ。
  詳しくは教えてもらえず、結局、実家に出向いて確かめる道を選んだの
  だった」



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