『脆い絆』
95 ◇雅代が倒れたその後で……



雅代が倒れた数時間後、両親の元へとその旨が伝わる。
人力車と電車を使い、這う這うの体(ほうほうのてい)で北山の人間が
知らせてきたのである。

意識不明の状態で病院へと運ばれたという事情説明と病院の住所を告げて
北山の従業員は帰って行った。

ふたりは取る物も取り敢えず、急いで病院へと向かった。
ふたりが到着した頃には幸い、雅代の意識は回復していた。

「雅代、意識不明って聞いてきたのよ。
話もできるくらい意識がはっきりしていて……よかった」
そう言うと母親は涙ぐむ。

「雅代、仕事辛いのか?」

「辛いったって、周りの皆だって同じように頑張ってるんだし大丈夫です。
退院したらまた頑張るから心配しないで」

雅代の両親は少しばかりの田畑を借りて野菜作りなどをしている半分自給自足の
ような生活で、雅代が結婚していた頃は婚家である秀雄の援助で暮らし向きが
成り立っていたため、このまま雅代が働けなくなると大川家にとっては大打撃で
ある。

そのような事情からの雅代の発言であった。
そして……
この時点で、はっきりとした病名は分からず、過労が原因かもしれないとの
医師の見解であった。

              ** **

独りで迎えた病院での夜、我が身の不甲斐なさに雅代は涙を零した。
父親にはああ言ったものの、徐々に疲弊していく身体を思うと今の仕事を
本当にこの先の長い年月果たして……続けていけるのだろうかと不安でしようがなかったのである。

           



        ――――― シナリオ風 ―――――



〇大川家/ 雅代の実家

   戸を叩く音。
   北山の使いの者が慌ただしく入ってくる。


北山の従業員
「大川さん! 娘さんが……雅代さんが倒れて、意識不明のまま病院へ運ばれました!」

   両親、驚愕して立ち上がる。

母「えっ……意識不明って……!」

父「……! すぐに行こう!」

(N)
「人力車と電車を乗り継ぎ、這う這うの体で病院へ駆けつけた両親。
 到着した時には――幸い、雅代の意識は戻っていた。」


〇病院の病室

   病室の静けさ。
   遠くで鐘の音。

母(涙ぐんで)
「雅代……よかった……話もできるくらいに意識がはっきりしていて……。
 ほんとうによかった……」

父「雅代、仕事がそんなに辛いのか?」

雅代(弱々しく微笑んで)
「辛いったって……みんな同じように頑張ってるんだし……。
大丈夫。退院したらまた頑張るから、心配しないで」

(N)
「両親は少しばかりの田畑を耕す自給自足に近い暮らし。
 かつては婚家からの援助で成り立っていたため、雅代の働きが途絶えること 
 は大きな痛手となる。
 その事情を理解しているからこその、雅代の言葉だった」

病院の病室 / 相部屋 夜

   時計の音。
   他の患者たちは寝静まり―――静寂が……。
   窓から月明かり。

(N)
「診断は“過労の可能性が高い”との医師の見解。
 はっきりとした病名は分からないまま、夜が訪れた」

   雅代、布団の中で涙を流す。

雅代(心の声)
「父さんには……大丈夫だって言ったけど……。
 でも、この身体……この先もずっと、この仕事を続けていけるのかし
 ら……」

   すすり泣く声。

(N)
「我が身の不甲斐なさに、雅代は声を殺して泣いた。
 未来への不安に押し潰されながら……」


            

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