欲望のシーツに沈む夜~50のベッドの記憶~
「天気予報、完全に外れてましたよね……」

返す声がかすかに震えていたのは、寒さのせいだけじゃない。

隣に立つ男性が、妙に近く感じられて、胸が少し高鳴っていた。

ふと、視線が彼の胸元に向かってしまう。

濡れたシャツが肌に張り付き、うっすらと肌の色が透けて見えた。

輪郭が浮かぶ胸筋、淡く筋の通った腕の線。

「……すみません、見苦しくて。」

彼は私の視線に気づいたように、ふっと微笑んだ。

「い、いえっ……!」

慌てて首を振ると、彼は笑いを含んだ目で、何も言わずに前を向いた。

沈黙。だが不思議と気まずくはなかった。

ふたりだけがぽつんと浮かぶように、雨音の中に包まれていた。

彼の隣は、思っていたより暖かくて――私は、もう少しだけこの雨が止まないでいてくれたらと、思ってしまった。
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