欲望のシーツに沈む夜~50のベッドの記憶~
翌朝、出社した彼は、まるで昨夜のことなどなかったかのように、いつもの“忠犬”に戻っていた。

「部長、この資料、デスクに置いておきますね。」

「えっ!もうできたの?」

そのスピードに、思わず目を見張る。

「相変わらず、仕事が早いわね。」

そう言うと、彼は少し得意げに微笑んだ。

「この忠犬、部長に頼まれた仕事だけは、最優先で終わらせますから。」

「……何それ。」

思わず吹き出した私に、彼はわざとらしく肩をすくめてみせる。

当たり前じゃないですか――そう言ったあと、ふと私を振り返った。

その一瞬。

さっきまでの笑顔が消え、真っ直ぐに見つめる視線に、心臓が跳ねた。

あの目は――昨夜、私を何度も貫いた“オスの顔”。

「沙耶。」

誰にも聞こえないような小声で、彼が囁く。

「……今夜も、いいですよね?」

甘く、低く、熱を含んだその声に、私は返事ができなかった。

ただ、顔を背けたまま、頬が赤くなっていくのを止められなかった――。
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