欲望のシーツに沈む夜~50のベッドの記憶~
6、禁断の温泉宿、貸切の夜

出会いは旅先の温泉宿で

久しぶりに訪れた温泉宿は、山間の静かな一件宿だった。

風の音と木々のざわめきだけが聞こえる――そんな空気が、張り詰めた心をゆるりと解いていく。

「静かなところ……」

思わず、独りごとのように呟く。

玄関を入ると、若女将が笑顔で迎えてくれた。

「ようこそお越しくださいました。当宿は五部屋だけの小さな宿でして、お一人様でもゆっくりとお寛ぎいただけます。」

「ありがとうございます。静かなのが一番だったので、嬉しいです。」

案内された部屋は、木の香りがほのかに漂う和室。

窓の外には渓流が流れ、鳥の声まで聞こえてきた。

「ここなら、何も考えずに過ごせそう。」

私は大きく息を吸い込み、やっと日常から切り離されたことを実感した。

予約しておいて、よかった。

自分のためだけに選んだ、贅沢な時間の始まりだった。
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