欲望のシーツに沈む夜~50のベッドの記憶~
「あー、楽しかった。」

露天風呂に入ると、ほっと息が漏れた。肩まで沈み、空を仰ぐと、夜風が気持ちいい。

そのとき、湯気の向こうに人影が見えた。

「あれ?」

向こうもこちらに気づいたらしく、軽く手を挙げる。

「奇遇ですね。」

声で分かった。さっきの夕食で隣だった男性だ。

「……ここ、混浴だったんですね。」

「ええ、貸し切りじゃないと男女一緒になるみたいで。」

「そうだったんだ……」私はちょっとだけ身を沈めた。

「冬馬です。」

「……あっ、紗月です。」

湯気越しの自己紹介は、少し照れくさい。

「なんか、すごい偶然ですね。」

「たしかに。」

しばしの沈黙。けれど、気まずさはなかった。

「そうだ。この後、俺の部屋で一杯飲みませんか?」

「えっ……」

「もちろん、無理にとは言いません。でも……話しやすくて、もっと話したいなって。」

一瞬迷ったけれど、私は旅に日常を持ち込まないと決めたんだ。

「はい。」

頷いた私に、冬馬はふわりと笑った。

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