欲望のシーツに沈む夜~50のベッドの記憶~

貸切風呂、揺れる心

通されたのは、落ち着いた雰囲気の和室だった。床の間には季節の花、障子の奥には湯けむりがちらちらと見える。

「ここ、貸し切り露天があるんですよ。」

そう言って、冬馬さんが障子を開けて見せてくれた。湯船の縁には灯りがともされていて、幻想的な雰囲気。

「すごい……」

「でしょ? 一人じゃもったいないなって。」

どうして、そんなことまで——。

「何飲みます?」

「ビールがいいです。」

グラスに注がれた泡が、くすぐったいほど柔らかかった。

私たちは並んで座り、湯けむり越しに乾杯した。

「彼氏、いるんですか?」

「いえいえ。いたら一人で旅なんて来ませんよ。」

笑ってごまかしたけれど、内心少しだけ寂しさがよぎった。

「冬馬さんは?」

「俺もいないですよ。……今は。」

沈黙が落ちた。でも、それは気まずさじゃなく、何かが静かに動き出す予感のようだった。

その時、視線が重なる。

お互い、もう“ただの旅の客”ではいられなくなっていた。

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