私の中にあるモノ
エピローグ
ーーーーーーかくして。

竜人研究所に安置されていた『竜の心臓』は、一人の竜人の少女、皆宮ムリカの手によって持ち出され。

彼女自身の身体と共に、深い湖の底に封印された。

どんなに湖の底を攫っても、持ち出された『竜の心臓』も、そして皆宮ムリカの亡骸も、何処にも見つからなかった。

竜人の元であった『竜の心臓』が失われたことによって、新たな竜人を造り出すことは不可能になり。

更に、竜人計画の中心人物であった、山口教授の死も追い打ちとなり。

竜人計画は、計画半ばで頓挫、その後完全に凍結された。

現在生存している竜人の成功検体に関しては、彼らが寿命を終えるまで、研究所で保護された。

『竜の心臓』が失われた以上、新たな竜人が生まれることはなく、竜人研究所はその存在価値を失った。

研究者達は、全ての竜人が寿命を迎えた後に、施設から撤退した。

その際、竜人研究に関する研究資料は、全て破棄されたとも、誰かが持ち逃げしたとも、何処かに封印されているとも言われている。

あるいは、湖の底に隠されている、とも。

最早、その真偽は定かではない。

打ち捨てられた研究所は、全く人の手が行き届かなくなったことにより、またたく間に廃墟と化し。

誰一人、足を踏み入れることのない、湖の中の孤島に成り果てた。

そして、長い長い時を経て、竜人研究所は誰の記憶からも消え去り、朽ち果て。

湖の水位が上がったことで、孤島は湖の中に呑み込まれ、僅かに残っていた建物の残骸ごと、水の中に沈んだ。

今となってはもう、誰一人、竜という種族の存在を知らない。

竜人という、人間に造られた竜がいたことも知らない。

この湖の底で、多くの命が生まれ、そしてもっと多くの命が失われたことを知らない。

後の世界に残っているのは、子供の考えたお伽噺のような、一つの伝説だけ。

この湖には、昔、竜が住んでいたという。

その竜は今でも、湖の底で人間から隠れて生きているという…。

そんな伝説が、語り継がれている。

故に人々は、この湖のことをこう呼ぶ。

「竜の眠る湖」、と。



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