私の中にあるモノ
思わず、私は驚いた。

彼女が、突然現れたからではない。

目の前に現れたその少女が、酷く憔悴していたからである。

疲労が色濃く滲み出た顔をしながら、それでも私に対して、彼女は敵意を向けてきた。

彼女もまた、私や此代と同じように、頭にツノが生えていた。

つまり彼女も、竜人の成功検体だということだ。

だけど彼女のツノは…右側のツノの先端が、削れたように欠けていた。

…どういうこと?この人、どうして…。

「…何ボーッとしてるのよ?」

「えっ…あ、えぇと」

「大体あんた、今日は訓練室で姿を見なかったけど。一体何をしてたの?」

「…それは…」

「…ふん、随分と余裕なのね。自分は、まだ安泰だからって…」

彼女は憎々しげに、そう吐き捨てた。

安泰…って?

「…ねぇ、それよりも、あなた」

「それより…って何よ?私のこと馬鹿にしてるの…!?」

そ、そんなつもりじゃ。

「だって…あなたが、凄く疲れた顔をしてるから…。大丈夫かって、そう聞きたかっ…」

「何言ってるのよ…!馬鹿にしないで。私はっ、私だって、まだ…!」

「なぁ、ちょっと。落ち着けって。…おみっちゃん」

ヒートアップしかけたところに、此代が割って入った。

え、おみっちゃん?

この…ツノが片方欠けた彼女が、さっき此代が言ってたおみっちゃん…こと。

近江ムライカ…なのか?

「何よ?邪魔しないで。あんたには、関係ないでしょ」

「そりゃまぁ…関係ないけど…。それを言うなら、おみっちゃんだって関係はないだろ」

「ふん…。あんただって…大したシンクロ率じゃない癖に…。偉そうに、私に指図しないで」

「…」

近江ムライカは、此代を突き放すようにそう言った。

「…そんな言い方…」

「…うるさいわよ。あんたに指図なんて…!」

と、近江さんは更に因縁をつけてこようとしたが。

突如、彼女は苦しそうな顔になって。

「うっ…ぐ…」

一歩、二歩と前のめりに足をつき、片手でぐっと胸を押さえた。

「…!?近江…?」

「おみっちゃん、大丈夫か…!?」

「うぅ…う…」

近江さんは言葉を返さず、苦しそうに呻いていた。

一体どうしたの?なんで突然…。

「…どうしたら良いの?此代…誰か、呼んできた方が…」

「い…。いい、わ。余計な…ことを、しないで…」

枯れた声を絞り出すように、近江さんは胸を押さえたまま、そう言った。

余計なことって…。

「でも…。…あなた、どう見ても具合が…」

「な…何でも、ない…。このくらい、何でも…」

…何でもないはずがない。

…そうだ。

「3階に…。3階は病棟フロアなんでしょう?そこに連れていけば…」

「…やめ、て…」

え?

「やめて…。余計なこと、しないでっ…!」

「…近江…さん」

「大きな…お世話よ…。このくらい、私は…」

…だけど。

どう見ても、近江さんの様子は普通ではなかった。
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