私の中にあるモノ
竜の寿命は、人のそれよりも、遥かに長かったそうだ。

だから、その長寿の竜の血を混ぜ込んだ私達竜人も、当然長寿を誇るものだと…。

「竜の血は…人間よりも、ずっと…」

「そうね。竜は長生きだけど…でも竜人は違うわ。…竜の血に、脆弱な人間の器が耐えられないの」

「…」

「身体が持たなくなるのよ…。どんなにシンクロ率が高くても、段々と、強過ぎる竜の血が、身体を壊していって…その結果、どんどんシンクロ率が下がっていって…。…いずれ、寿命を迎えるわ」

…その起源が、長くても20年。

だから私は…私の身体もまた、あと5年前後で、崩壊を迎える。

そんな…。

「…皆宮。近江を覚えてるか?」

武藤くんが、近江さんの名前を出して尋ねた。

こんな時に…。…何?

「え、えぇ…。昨日…会ったわ」

「そうか。…今日は?今日は近江の姿を見たか?」

「いいえ…。でも…今日は訓練には参加してないんじゃ…」

「いいや、違う。近江は今…3階にいるんだ」

えっ…?

3階って…病棟フロアのこと?

「病棟で…治療してるの?どうして…」

「治療じゃない…。訓練以外に、シンクロ率を上げる方法はない。老いて、死ぬのを待つだけだ」

「だから3階の病棟フロアは、別名『老人ホーム』なんて呼ばれてるわ。一度入ったら、死ぬまで出られないって…」

武藤くんと芦田さんが、そう教えてくれた。

…知らなかった。

山口も、篠森さんも…そんなこと、教えてくれなかった。

「じゃあ…今日、彼女の姿を見なかったのは…」

「『老人ホーム』に入ってるからだ。彼女も…以前は皆宮と同じように、かなり高いシンクロ率を誇っていた。だけど最近は…突然、シンクロ率が低迷を始めて…」

「それでも、近江さんは諦めずに頑張ってたわ。熱心に訓練を続けて…。少しでも、寿命を伸ばそうと…」

「でも、やっぱり駄目だった…。今朝、身体が一時的な崩壊を始めて…。『老人ホーム』に担ぎ込まれたんだ」

2人のその説明で、私は思い出した。

今日の朝、起きて自分の部屋を出た時。

研究者達が、何やら部屋の前で騒いでいたことを。

あれは…近江さんの部屋だったんじゃないだろうか。

近江さんの身体が崩壊を始めて…それで、3階に連れて行かれてしまって…。

それから私は、昨日の近江さんを思い出した。

酷く憔悴しきった…疲労が色濃く滲み出た顔を。

彼女は、生きる為に必死だったのだ。

下がりつつあるシンクロ率を、訓練によって少しでも上げる為に。

間近に迫ってきた崩壊の恐怖を、遠ざける為に。

だけど…近江さんの努力は、実を結ばなかった。

「じゃあ…近江さんは…このまま…」

「…一次崩壊が始まったら、二次崩壊も遠からず来るだろう。…その時が、本当に近江の最期だ」

「…」

今の近江さんは、もう訓練に参加することも出来ない。

3階の…『老人ホーム』なんて揶揄される、恐ろしい、死を待つだけの部屋の中で。

間近に迫る死に怯えながら、一分一秒を噛み締めるように生きている。

「本当は、近江にも脱走を勧めたかった。だけど、もう近江は無理だ…。間に合わない。もう彼女は…自分で歩くことも出来ない」

「…」

「…残念だ。本当に…残念だよ」

…近江さん。

何も悪いことなんてしてないはずの彼女が…。

…いや、違う。

何も悪いことなんてしてない私達が…どうして、こんな目に。
< 38 / 105 >

この作品をシェア

pagetop