私の中にあるモノ
あまりに衝撃的な…そして、悲劇的な事実を知らされて。

私は言葉を失い、何も言えなかった。

記憶が戻るとか戻らないとか、そんなことで悩んでいた自分が馬鹿みたいだ。

どうでも良い、記憶なんて。

生きるか、死ぬか…その問題に直面している、彼らの運命に比べたら。

しかもそれは、他人事ではないのだ。

私も遠からず…崩壊を迎える。

いつか寿命が来て…シンクロ率が下がって、下がって、下がりきって…。

そして…その先は…。

…あぁ、どうして。

竜達は…。竜達は、そんな過酷な運命を人間に背負わせることなんて…望んでいなかったはずなのに。

「…ごめんな、皆宮。記憶をなくした今のお前には、辛い話だよな」

私が絶望していることを察して、武藤くんがそう言ってくれた。

「…私は…」

「…でも、だからこそ…俺達は、この研究所から脱走しようと思ってるんだ」

「…」

…ここで、最初の話に戻ってくるのね。

脱走…。

最初に聞いた時は、あまりに荒唐無稽で、無謀で、無駄なことに思えた。

でも、寿命の話を聞いた…今は違う。

「脱走して…。それで、生きられるの…?」

「いいや、それは無理だ…。…何処に行っても同じことだ。シンクロ率の低下は避けられない。ここにいても、別の場所にいても、俺達は近いうちに死ぬ」

「…」

何処にいても、死の運命は避けられない。

私達が、竜人として生まれたからには。

「だからせめて…最期の場所くらいは、自分達で選びたい。こんな狭苦しい研究所の、『老人ホーム』の硬いベッドの上じゃなくて…広い世界の下で、青空のもとで死にたい。…そう思うのは間違ってるか?」

「…。…ううん」

誰しも、そう思うはずだよ。

竜の血を継いだ私達なら、なおのこと。

「私達が外の世界に行けば、外の人々は私達の存在に…竜人研究所の存在に気づくわ。この研究所で何が行われているかも」

と、芦田さんが言った。

「そうすれば、外の人々がこの研究を止めてくれるかもしれない。私達は生きられなくても、これから生まれてくる…これから犠牲になる竜人達は救えるかもしれない。それだけで、私達が死ぬ価値はある…」

「…外…」

この研究所の外…大きな湖の向こう。

そこに広がる、本の中の伝説でしか見たことのない世界…。

果たしてその世界は、どんな色をしているんだろう。

きっと、私達が想像もつかないくらい広くて…美しい世界だろう。

かつて滅びた竜達が見ていた世界…。

その世界を…私も、見ることが出来るなら…。

「…」

「…だから皆宮、お前も一緒に来てくれないか?」

武藤くんは、改めて私にそう持ちかけてきた。

「一緒に、この研究所を出よう。逃げるんだ」

「…それは…」

…今の、話を聞かされたら。

嫌でも、心を揺れ動かされてしまう。

私だって…この研究所で、死ぬまで飼い殺しなんて御免だ。

シンクロ率と寿命の話を聞かされた今となっては、なおさら…。

…それに、私も見てみたい。

竜が見ていた世界。この広い世界の外を。
< 39 / 105 >

この作品をシェア

pagetop