私の中にあるモノ
「…皆宮…」

「ごめんなさい…。本当に、ごめんなさい…。あなた達を否定する訳じゃない…でも…」

私は行けない。

だって、置いていけないもの。

他の竜人達…。此代や、近江さんのことを。

それに、この場所には私の…。

…私の中にある、大切なモノが…。

…だから。

「ごめんなさい…」

「…良いんだ、皆宮。謝らなくて良い」

脱走の協力を、断られたにも関わらず。

武藤くんは微笑んで、私を励ましてくれた。

「分かってる…。みんな、それぞれ自分の思いがある。自分の貫く考えがある…。俺はそれを尊重する」

「武藤くん…」

「理由は聞かない。皆宮は、皆宮が納得する選択をしてくれ」

…。

彼の優しい言葉に、私は思わず胸が熱くなった。

それだけに、彼の思いに応えられない自分が歯痒くて堪らなかった。

それから、謝らなければならないのは武藤くんだけではない。

「芦田さんも…。ムダナちゃんも、ごめんね…」

「…良いのよ、大丈夫。気にしないで」

芦田さんも、私を責めることはなかった。

彼女も微笑んで、私を元気づけてくれた。

「あなたがそれを選ぶなら、それで良いの。ただ、私達が居たことを…生きていたことを、覚えておいてくれれば、それで…」

「…うん」

私は、芦田さんの手を取った。

忘れない。今度は絶対…忘れないから。

「…ムダナちゃんも…」

「…」

私が手を差し出すと、ムダナちゃんは私の手をぎゅっ、と握った。

最早言葉を話すことも出来なくなった彼女は、それでも、私に「気にしないで」と言うように、首を振った。

…ありがとう。

「皆宮…このことは、誰にも言わないでくれ。俺達が無事に脱出するまでは…」

「分かってる…。誰にも言わない」

告げ口するような真似はしないよ。

君達の決めたことだもの。

武藤くん達が、私の想いを…意志を、尊重してくれたように。

私もまた、彼らの想いを尊重する。

その代わり。

「お願い…。無事に逃げ延びて」

残り時間が少ないのだとしても。

最期の1秒まで、絶対に生きることを諦めないで。

どうか…その想いを果たして。

「もちろんだよ、皆宮」

「…」

…寿命が間近に迫っている彼らに、こんなこと言うのはおかしいかもしれないけど。

「…元気でね」

彼らに残された命の残り時間が、せめて少しでも希望に満ちたものであるように。

願うことしか、私には出来なかった。

「あぁ。…皆宮も、元気でな」

「さようなら、皆宮さん」

「…」

武藤くんも、芦田さんも、そして言葉を話せないムダナちゃんも。

微笑んで、私に手を振った。






そして、それが。







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