私の中にあるモノ
廊下を駆け抜け、階段を駆け下りて。

私は1階の正面玄関から飛び出した。

普段は、厳重に鍵がかけられているはずの正面玄関が、開け放たれていた。

そして…。

「…。ん?…やぁ、皆宮」

「や…山口…」

正面玄関の前に立って、双眼鏡を手に、白衣姿の山口教授が、そこにいた。

私に気づいた山口は、笑顔で振り向いた。

「どうしたんだ?皆宮。こんな時間に」

…そんなことはどうでも良い。

私は、遠くに見える黒煙を、呆然と見つめていた。

暗闇の中でも、はっきりと見える。

…あの黒煙は何?

さっきの…凄まじい爆音は、何だったの?

私は半ばパニックを起こし、山口を前に言葉も出なかったが。

彼は構わず、私に話しかけた。

「夜中に外に出るのは良くないなぁ。さぁ、早く部屋にもどっ…」

「…なに、を、したの?」

「ん?」

私は喘ぐように、何とか言葉を絞り出した。

「あの煙は…何?さっきの音は…」

「…あー…」

山口は、少し考えて。

でも、次の瞬間には、何事もなかったように、

「君達竜人の何人かが、脱走計画を企てたらしくてね。深夜に奇襲をかけて、物資搬入用のヘリを奪ったそうなんだ」

「…!」

…やっぱり。

武藤くん達は、計画を実行に移したのだ。

「いやぁ、驚いたよ。竜人の成功検体が、研究所から脱走する…。想定はしていたけど、実際に決行したのは彼らが初めてだ」

「…」

「誇り高い竜族の血を継いだ彼らが、脱走なんて『人間的』な発想をするなんて…。…まぁ、彼らはシンクロ率が随分下がってたから、人間寄りの考えに傾倒するのも仕方ないけど…」

山口は双眼鏡で、黒煙の昇る方を見つめながら。

軽快な口調で、一方的に喋り続けた。

私の返事なんて、ハナから期待していない。

「逃げ出してどうするつもりだったのかなぁ?外の世界に逃げて、人間達に自分の正体を明かすつもりだったんだろうか。それとも、ひっそりと隠れるように朽ちていくつもりだったんだろうか」

「…」

「彼らが何を考えて、何を目指して脱走計画を立てたのか…。それを知れなかったことが残念だよ」

…え。

私は愕然として、顔を上げた。

「このまま研究所から逃がして、彼らが外の世界でどんな風に生きていくのか…。その過程を、観察してみたい気持ちもあったんだけど…。…さすがに、まだ竜人研究所の存在を、外の世界に知られる訳にはいかないからね」

「…山口…。あなた、…まさか…」

先程の爆音。遠くに見える黒煙。

そして…今の山口の言葉。

まさか。武藤くんは…芦田さんは、ムダナちゃんは…。

彼らと共に脱走に参加した、他の3人の竜人達は…。

彼らの…残り少ない、命は。

「現時点で得られるデータは、全て回収した。…彼らは検体として、最期にとても良い仕事をしてくれたよ」

「…!」

「だから…もう、用済みだ」




…その一言で。

私は、既に脱走を企てた6人の同族達が、この世の存在ではないことを知った。
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