私の中にあるモノ
「…記憶を失ってから、随分お優しくなったもんだな、皆宮」

山口は私に胸ぐらを掴まれたまま、私を見下ろしていた。

「彼らと知り合いだったのか?それとも…君も、脱走に参加するよう誘われたのか?」

「っ…!」

…それは。

私が狼狽えたことで、山口は理解したようだった。

「あぁ、成程そういうこと…。でも、君は断ったんだな。良かったよ…。現状、全ての検体の中で最もシンクロ率の高い君まで失うと、今後の竜人計画に支障が出る」

「…今後…?…どうせ、私だって5年後にはこの世の者じゃなくなってるのに?」

挑むようにそう言うと、山口は少し驚いたようだった。

「どうしてそのことを…。…あぁ、武藤ムカチに聞いたのか…」

「…そうよ」

「君の現在のシンクロ率から推察すると、君はあと6、7年くらいは生きられるよ。心配しなくても」

そんな心配、する訳ないでしょ。

5年の寿命が6年、7年に延びたからって、それが何だって言うの?

たった1年や2年延命出来たからって、そのすぐ先に、私の死が迫っている事実は変わらないというのに。

「それに、記憶をなくしてるだけで…君は既に、これまでも何度も、同族の死を経験しているんだ」

「…」

「武藤ムカチや芦田ムガクにだけ、同情するつもりかい?君が忘れてるだけで、これまでも寿命を迎えて死んでいった君の仲間達は、腐るほどいる」

…そうね。

そもそも、生まれてくることさえ出来なかった同族達も、大勢いる。

彼らの死を、いちいち悼んでいる余裕はない。

そうなのかもしれない。

「今更、知り合いが数人死んだからって、そんな怒髪天ついて怒るようなことは…」

「…違う」

彼らを殺したことが許せないんじゃない。

これはそういう研究なんだから。私達は研究の為のモルモットなんだから。

私達が生きていようが死んでいようが、山口にとっては、膨大なデータの一つでしかない。

それは分かっている。

…分かっている。

だけど、私が許せないのは…。

「…なんで、笑ってるの?」

「え?」

「なんで笑ってるのよ…!!」

武藤くん達が、脱走に失敗して死んでしまったこと。

それはもう、どうしようもない。

武藤くん達の、想像以上に。

この研究所の研究者は、優秀だった。

いつか私達竜人が、脱走を図ることさえ…竜人計画の一つの過程として、想定していた。

だから、その時の為の対策もしていた。

武藤くん達は、その研究者の用意周到さに負けてしまったのだ。

悔しいし、死ぬほど口惜しい。

だけど、それは私達の想定が甘かった、向こうの方が一枚上手だった、と理解することが出来る。

…それでも。

その貴重な「研究データ」を、嬉しそうに語る山口は、許せなかった。

「笑いながら言うことじゃない…。わっの死は、私達の命は…!あなたの好奇心を満たす為の道具じゃない!」

「…」

私の、必死の訴えを。

山口は、無表情に聞いていた。
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