私の中にあるモノ
此代は、自分の短い寿命のことをどう考えているんだろう。

「此代…。…君は、自分の寿命を…」

「…分かってるよ。今のところは…自分だって、シンクロ率も安定してるけど…。多分、あと4、5年の命だろ」

「…そう…」

なんて言ったら良いのか分からない。慰めようもない。

それに…私だって似たようなものだ。

竜人である以上、決して逆らえない運命なのだ。

「少しでも寿命を伸ばそうと…少しでも長く生きようと、頑張ってはいるけど…。…こんなことして何になるんだって、思うことはあるよ」

「…。…そうだね」

「だけど、だからって逃げ出したってしょうがないじゃん。研究所を離れても、寿命が1秒でも延びる訳じゃないし…」

「…」

そういう意見もある。

他の竜人達も、此代と同じ考えなんだろう。

だからこそ、これまで一度も、脱走を企てる者はいなかった。

「…っていうのは、自分がまだ命の余裕があるから、そう言えるのであって…。…自分も終わりが近くなったら、逃げ出そうとか…。せめて違う場所で死にたいとか、そんな風に思うのかもしれないな」

「…うん」

私達だって、他人事ではいられない。

今はまだ良くても、あと数年して…シンクロ率が下がっていけば…。

「…ねぇ、此代。聞いても良い?」

「何を?」

「どうして私達は…。こんな運命を背負わなきゃいけなかったんだろう…?竜族は…こんなことを、望んでいたのかな…?」

「…そうだなぁ…。難しい質問だな」

此代は腕を組んで、少し考えた。

「竜が何を望んでいたのかは、そりゃ竜にしか分からないと思うけど」

「うん」

それはそうだよね。

「でも…自分個人としては、そんなに自分の運命を悲観してるつもりはないな」

「…え?」

「っていうのは…。まだ自分の寿命が目前に迫ってる訳じゃないから、もう何年かしたら、考えが変わるかもしれないけど」

「…此代は、自分が竜人であることに満足してるの?」

我ながら、下らない質問である。

自分の生まれに満足してるかなんて。

満足してても不満でも、生まれを変えることは出来ないのに。

それでも、此代はそんな下らない質問に、真面目に答えてくれた。

「だってさ、人間だって、いつ死ぬかなんて分かんないじゃん?大抵の人は80くらいまでは生きるけど、中には若い頃に…それこそ、赤ん坊のうちに死ぬ人もいる訳で」

「それは…」

「さっきまで元気だったけど、もしかしたら、今日交通事故で死ぬかもしれない。一時間後には、心臓麻痺で死んでるかもしれない。1分後に大地震が起きて、家の下敷きになって死ぬかもしれない…。…そんな恐怖を抱えて生きてる訳だろ?…普段は意識してないだけで」

そうね。
 
そんな「〜かもしれない」の恐怖を常に恐れていたら、通常の社会生活を送ることなんて出来ないはずだ。

「それと同じでさ…。天寿を全う出来ずに死ぬ人間がたくさんいるように、…20年も生きずに寿命を迎える竜人がいたとしても、おかしくはないって言うか…」

「…此代は、そんな風に考えてるんだね」

「…まぁ、そう思い込もうとしてるだけなのかもしれないけどな」

そうね。そうしないと、辛いものね。

自分の運命を受け入れるっていうのは、そんなに簡単なことじゃないから。
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