私の中にあるモノ
振り向くと、彼女の様相は一変していた。

近江さんはベッドに横たわって、その瞳に涙の粒を浮かべていた。

「…死にたくない…」

そして、掠れた声で、そう呟いた。

「死にたくない…。死ぬのは怖い。助けてよ、皆宮…。…私を助けて…」

「…!」

…近江、さん。

それが本当の…掛け値無しの、彼女の本音だった。

「近江さんっ…」

私は、近江さんの傍に駆け戻った。

彼女は顔をぐじゅぐじゅにして、必死に訴えていた。

命の訴えを。

「死にたくない…。私は死にたくないよぅ…。頑張ったのに…。あんなに頑張って、辛い、訓練をっ…。頑張って…いれば、生きられるって…」

「近江さん…」

私は、記憶を失った最初の日、近江さんに会った時のことを思い出した。

訓練の後、疲れ切って、憔悴しきっていた彼女の姿を。

…思えばあの時点で、彼女の身体は、もう限界を迎えようとしていたのだ。

苦しかったはずだ。辛かったはずだ。

身体じゃなくて…。…心が。

それでも彼女は、自分の寿命が、段々と迫ってくるのを感じながら。

必死にその事実を、否定し続けた。

認めてしまえば、自分の死を受け入れることになる。

だから拒絶し続けて、訓練を頑張ればまだ生きられるって、そう信じて。

血の滲むような努力をして…たくさんたくさん、頑張ったのに。

…それなのに、その努力は、こんな形で裏切られようとしていた。

「竜人の誇りなんてどうでも良いんだよぉ…。そんなことどうでも良いから…。生きたい。私は生きたいんだよ。死ぬのは怖いんだよぉ…」

近江さんは、枯れ枝のような両手で自分の顔を覆った。

彼女の顔は、恐怖に引き攣っていた。

「…うん」

怖いよね。死ぬのは。

誰だってそうだよ。人間だって…竜だって。

「生きてたいよぉ、皆宮…。助けて…死にたくないよ…」

「…」

愚かな私は、何も言えなかった。

ただ近江さんの手を取り、一緒に泣いてあげることしか。

「死にたくない…。死にたくないよ…。死ぬのは怖い。助けて…助けて、皆宮…。助けてよ…」

「…うん…。…うん」

近江さんは震える手で、私の手を弱々しく握り返した。

大丈夫だよ、って言ってあげたい。

助けてあげるよ、って答えてあげたい。

でも、どうしてそんな無責任なことが言えるだろう。

大丈夫なんかじゃない。

助けることなんか出来ない。

私は無力だ。

死にゆく彼女に、してあげられることは何も無い。

ただ、傍らで彼女の手を握り締めてあげることしか。

「こんなっ…。こんな終わりを迎えるなら…」

近江さんはしゃくり上げながら、涙声で私に問いかけた。

「私…一体、何の為に…生まれてきたの…?」

「…」

「教えてよ…皆宮。教えて…。私の…命の、意味…」

「…」

…答えられるはずもなかった。

自分の手では何一つ成せない、愚かな私では。
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