私の中にあるモノ
「ほんと…。みんな、馬鹿ばっかりだわ…。此代も…皆宮、あんたも…」

私はともかく、此代は馬鹿じゃないよ。

「それに…。昨日…誰か脱走したんですって…?ここまで、騒ぎが聞こえてたわよ…」

「うん…。武藤くん達が…」

「武藤…?…あぁ、そう…。…あいつも馬鹿ね…。逃げ出そうなんて…」

「武藤くんは、馬鹿じゃないよ…」

優柔不断な、私とは違うよ。

芦田さんもムダナちゃんも、他の3人も立派だった。

馬鹿じゃない。

それでも、近江さんはうっすらと笑いながら、繰り返した。

「馬鹿よ…。逃げ出そうとして、そのせいで死んだんでしょ…?」

「…」

…それは。

病棟フロアにいる近江さんにも、この話は伝わっていたらしい。

「脱走なんかしなきゃ…あと何週間か…。何日かでも、生きられたかもしれないのに…」

「…近江さん…」

「自分から、死を選ぶようなものよ…。…本当に…馬鹿、だわ…」

彼女の考えを、否定することは出来なかった。

此代は、逃げ出した武藤くん達のことを「強い」と言った。

だけど近江さんは、あと少しでも長く生きられたはずなのに、脱走なんかして命を縮めた彼らを「馬鹿」だと言った。

同じ竜人でも、こうも意見が食い違うとは。

どちらが正しいという訳ではない。…どちらも正しいのだ。

死を前にすると、私にも近江さんのような考えになるのだろうか。

「私は逃げ出したりしない…。最期まで、竜人として、誇り高く生きて…。そして、誇り高く死ぬのよ…」

彼女は自分に言い聞かせるように、そう言った。

「私は…あんたとは違うわ、皆宮…。私は自分の誇りも…記憶も…なくしたりしない。最期まで、強く…」

「…」

「何も…恐れたりしない。私は竜の血族として…」

「…近江さん」

「…出ていきなさいよ」

声に怒気を込めて、近江さんは力なく、私を睨みつけた。

「あんたの顔なんか、見たくもないわ…。…馬鹿にしないでよ。私が死にかけてるからって、私を憐れもうだなんて…。何様よ…」

「憐れんでないかないよ」

あなたの今の姿は、未来の私の姿だもの。

憐れむなんて…そんな不遜なこと、出来るはずがない。

「出ていきなさい…。最期の最期に、あんたの顔を見るなんて、冗談じゃないわ…」

「近江さん…。私は、でも…」

「出ていきなさいって、言ってるでしょっ…!」

近江さんは、自分の頭の下の枕を掴み。

それを、私に向かってぶんっ、と投げつけた。

だけどその力は弱く、投げつけた枕は、私に届く前に床に落っこちた。

枕にたくさんくっついていた抜けた髪の毛が、はらはらと床に舞った。

…私の顔を見ていると、近江さんは気分が悪くなるようだ。

もっと話したかったけど…。…仕方ない。

「…分かった。…また来るね」

「…もう、二度と来なくて良いわよ…」

そんなこと言わないで。また来るから。

私はくるりと踵を返し、病室から立ち去ろう…とした。

すると。

「…皆宮、待って」

「…え?」

近江さんが、力ない声で私を呼び止めた。
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