私の中にあるモノ
…そのまま、どれくらいの時間が過ぎただろう。

既に、外には夜の帳が下りていた。

私は相変わらず、ずっと近江さんの手を握っていた。

彼女の手をこうして握っておけば、彼女の命をこの世に繋ぎ止めることが出来るとでも思っていたのだろうか。

…長い、長い沈黙が流れていた。

言葉なんて必要ない。

彼女の気持ち、その思いは、すべて私に伝わっていた…。

…すると。

「…なんて顔してるのよ、馬鹿」

いつの間にか涙を止め、正気に戻っていた近江さんが、沈黙を破った。

私を馬鹿にするように、ぷっと噴き出した。

でもその笑顔は、酷く空虚に見えた。

「ぐちゃぐちゃじゃないの…。鏡、見てご覧なさいよ…」

「…」

…そうね。我ながら、酷い顔をしている自覚はある。

でも、それを言うなら…。

「近江さんだって…泣いてたじゃない」

「私は泣いてないわ…。私は…誇り高い、竜人だもの…」

「…」

今となっては、その誇りに何の意味があるのか。

「近江さん…。私、何も出来なくて…。…ごめんね」

「何を…馬鹿正直に、謝ってるのよ…。あんたなんかに何か出来るなんて…最初から思ってないわ…」

「…」

そうだね。

私は…どうしようもないほどに、無力な存在だから。

「…まぁ、でも、あんたの間抜けな泣き顔を見て、胸がスッとしたわ…。良い、気味よ…」

「近江さん…。私は…」

「もう…消灯時間、でしょ。さっさと…部屋に帰りなさいよ…」

「…」

「明日はちゃんと訓練、行きなさいよ…。サボってたら、あんたもすぐ…私みたいに…」

…干からびて、死んでしまうって言いたいの?

私が今恐れているのは、自分が死ぬことなんかじゃない。

君が、この世からいなくなってしまうことなんだよ。

武藤くん達と同じように…。

「…もう、話し疲れたわ…。…少し休ませて」

そう言って、近江さんは両目を閉じた。

「…近江さん、明日も会いに来て良い?」

「あんたも物好きね…」

「友達に会いに来るのに、物好きも何も無いでしょ」

「友達…?馬鹿なこと、言わないでよ…。誰が…あんたなんかと友達よ…」

「…」

近江さんは目を閉じたまま、また、ふっと笑った。

「…まぁ、でも…良いわよ。暇潰しくらいにはなるわ…」

「…うん」

…ありがとう。

「それじゃあ…また明日ね、近江さん」

「…えぇ…。…また、明日…」

彼女が、そう呟くのを聞き届けて。

私は、近江さんのベッドの傍らから立ち上がった。
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