私の中にあるモノ
翌日。

私は今日も、訓練に参加するつもりはなかった。

近江さんからは、ちゃんと訓練に行け、って言われたけど。

どうでも良かった。そんなことは。

それよりも、まず…。

私は朝を迎えるなり、真っ先に、3階の病棟フロアに向かった。

もちろん、昨日の約束通り…近江さんに会う為だ。

…しかし。

「…え…?」

「んん?…やぁ、皆宮じゃないか。奇遇だな、こんなところで」

「…」

近江さんの病室の入り口に、何故か山口が来ていた。

相変わらずの白衣姿で、私を見つけて朗らかに笑った。

「君、最近、訓練サボり過ぎじゃないか?まぁ君ほどのシンクロ率なら、まだ寿命は先だと思うけど…」

…そんな話はどうでも良い。

「そこをどいて。…私は近江さんに会いに来たの」

あなたと話してる暇はないの。

…しかし。

「そうなんだ?実は、俺も近江に会いに来たんだよ」

「…あなたも…?」

「うん。一応、もう駄目だろうけど、最後にシンクロ率を測定しておこうと思ったんだけど…。…無駄だったみたいだね」

…無駄?

何なの…どういうこと?

何故か、背中にぞっとするものを感じた。

何…?この、嫌な感じ…。

「無駄って何…?どういうことなの?」

「ご覧の通り。…近江はもう居ないよ」

「い…な、い…?」

それって、どういう。

「…っ」

居ても立ってもいられなくなって、私は駆け出した。

病室の入り口に陣取っていた山口を、乱暴に押し退けた。

「あ、わ、ちょ、ちょっと押さないでって」

「近江さん…近江さんっ…!」

山口を無視して、私は近江さんの名前を呼びながら、病室に飛び込んだ。

しかし。

「…!?」

そのベッドは、もぬけの殻だった。

皺が寄ったシーツと、彼女がかけていた薄っぺらいブランケットが、無造作に置いてあるだけ。

彼女が昨日、私に向かって投げつけた枕が、相変わらず床の上に転がっていた。

近江さんは何処にもいなくなっていた。

…どうして…一体何処に?

彼女の昨日の様子じゃ…自分で歩くことどころか、起き上がることさえままならないほど、衰弱していた。

それなのに…。

「近江さん…。何処に行ったの…?」

「あの世でしょ」

「!?」

私の呟きに、山口が答えた。

山口は病室のドアにもたれて、肘をつき。

いつもの軽快な口調で、有り得ないことを口にした。

「あ…あの、よ…?」

「崩壊したんだ。つまり死んだんだよ、近江は」

「…」

私は、その場に呆然と…愕然と、立ち尽くした。
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