私の中にあるモノ
私の記憶喪失が…私の中にいる竜の意志で引き起こされている。

…そんなこと…そんなことが。

「…一体、何の為に?」

そんなことをして、竜に何のメリットがあるの?

「さぁ。それは分からない」

「分からないの?」

じゃあ、なんでそんな仮説を立てたのよ。

「そういう可能性もあるかな、って話だよ」

「私の記憶をなくして、竜にとって良いことなんてあるの?」

「さぁ…?竜の意志なんて、所詮人間には分からないからね」

「…」

…山口に、ちょっとでも期待した私が馬鹿だったわ。

結局のところ、何も分からない、ってことじゃない。

「…ちょっと。そんな『使えないな』みたいな目で見ないでくれる?」

「実際、使えないなって思ってるからね」

「酷いなぁ、皆宮は…。俺だって頑張ってるんだからな?」

知らないよ。あなたの頑張りなんて。

「大体、記憶をなくす皆宮が悪いんじゃないか」

「私だって、忘れたくて忘れてるんじゃないわ」

誰が、好きで記憶喪失になんかなるものか。

私だって…私の中の『人間的』な気持ちは。

決して、記憶をなくすことなんて望んでいないのに。

それなのに…どうして。

「それが問題なんだよなぁ。…君の記憶喪失のきっかけが分からないのが」

「だから、それはシンクロ率が上昇して…そのせいじゃないの?」

「俺が言ってるのは、なんでシンクロ率が上昇すると、記憶を失うのか?ってことだ」

…あぁ。

確かに、それは分からないね。

「君が最初に、記憶を失ったのは6歳の時…。それまでもシンクロ率は、上昇したり、下降したりしてた。それなのに、6歳になるまでは記憶喪失は起きなかった」

「…」

「最初に記憶喪失が起きた、君が6歳の頃のあの日…。君に何があったのかな?」

「…」

…覚えているはずもなかった。

ご丁寧に、5回も記憶をなくしてるんだから。

だけど…でも。

6歳の時…何か、きっかけがあったのだろうか。

私が、記憶喪失になるきっかけが…?

「…私は覚えてないけど。当時、研究所にいた人に話を聞けば…何か分かるんじゃないの?」

「もちろん聞いたよ。でも、当時君の世話をしていた職員達に話を聞いても、特に目立った出来事はなかったはずだ、って言ってたし…」

「…」

「当時、君と仲の良かった他の成功検体達は、もうとっくに死んじゃったしなぁ…。聞きたくても聞けないよ」

私は、無意識に拳を握り締めていた。

…無神経なことを。

私は…その人達の死を悼むことは、おろか。

彼らの顔と名前も、思い出せないと言うのに。

「皆宮。君の方こそ、何か覚えはないの?」

「…何がよ?」

「君が記憶を失った、最初のきっかけ。どうして君は、記憶をなくしたんだ?」

…そんなの。

そんなの…知ってたら、とっくに…。

「…いや、違うな。この聞き方は正しくないか」

「山口…?」

「君の中の竜の血は、何故これまで5回にも渡って、『記憶を消さなければならない』と判断したんだ?」

山口は、私を見ていなかった。

私の方を見つめていながら、本当に彼が見ていたのは私じゃない。

私の中にいる…もう一人。

そう、竜という存在だった。
< 69 / 105 >

この作品をシェア

pagetop