私の中にあるモノ
「君が記憶を失う前に測定したシンクロ率は、いずれも過去最高の数値を記録している。過去最高のシンクロ率に、喜んでいたところに…君は必ず、記憶喪失を起こす」

「…そして、記憶喪失が起こった後のシンクロ率は、いつも700前後の…『平凡な』数値に戻る訳ね」

「その通り」

…まるで、「これ以上シンクロ率を上げるのはダメ」だと、身体にドクターストップがかかったみたいに。

シンクロ率が上昇すると、私は記憶を失い、そのせいでシンクロ率が低下する…。

「どうしてこんなことになるの?…シンクロ率が上昇するのを、私の身体が無意識に拒んでるの?」

そうとしか考えられない。

私としては、まったくその自覚はない。

大体、記憶喪失なんて、自分で起こそうと思って起きるような現象じゃない。

「俺もそう考えてた。シンクロ率が上昇するってことは、君の体内の竜の血が強まってるってことだ。だけど、君の身体には人間の血も流れてる」

「そうね」

「だから、竜の血が優勢になると、危機感を抱いた人間の血が、自己防衛の為、本能的に記憶喪失を引き起こし…無理矢理、竜の血を抑え込もうとしてるんじゃないか」

「…そんなことが出来るの?」

「実際、君の身体で起こってることだ」

…そう言われたら、そうね。

出来るも何も…既に起きてる。

だけど今山口は、「俺もそう思ってた」って、過去形で言ったよね?

つまり、今は違う考えなのだ。

「それで、今の山口はどう考えてるの?」

「うん?」

「違う見解が生まれたんでしょう」

その話をする為に、わざわざ私をここに呼んだんじゃないの。

山口は、少し腕を組んで考えてから、口を開いた。

「…そもそも、おかしいと思ってたんだよね。君の中の『竜の部分』が優勢なのに、なんで『人間の部分』が勝手に、記憶障害なんて引き起こせるのか…。あれほどシンクロ率が高まっている状態で、君の中の『人間の部分』が、君の身体にそれほど強く干渉出来るとは思えない」

「…ちょっと、意味が分からないんだけど」

「あ、ごめん。つまり…。…なんで君に、記憶喪失なんて『人間的な現象』を引き起こせるのか、って話。竜は記憶喪失になんてならないはずだからね」

…成程。

人間には記憶喪失が起きるけど、竜には記憶喪失は起きない。

だから、私に記憶喪失が起きるのは、私の中の竜の血じゃなくて。

私の中の人間の血が、私に記憶喪失を引き起こしている。

…はずだ。

でも、私の体内では、人間の血よりも竜の血の方が濃い。

私は竜人だけど、体内では「竜≫人間」の状態なのだ。

それなのに、どうして記憶喪失が起きるのか?

「…私の中の、人間の血が頑張ったんじゃないの?」

竜の血に負けてなるものか、とばかりに。

最後の力を振り絞って、私の脳みそに干渉して記憶喪失を引き起こした…とか。

凄いね。

もしそうだとしたら、私の身体の中では、常に竜の血VS人間の血という、仁義なき戦いが繰り広げられているってことだ。

勝手に私の身体の中で、喧嘩をしないで欲しいんだけど。

「うん。まぁ、その可能性もあるね」

「山口は、他にどんな可能性を考えてるの?」

「君の記憶喪失は、君の中の『人間の血』じゃなくて、『竜の血』が引き起こしてるんじゃないか、っていう仮説だよ」

「…」

…竜の血が、記憶喪失を引き起こす?

…それじゃ。

「私の記憶喪失は…私ではなく、竜の意志で引き起こされてるってこと?」

「その可能性も、考えられなくはないんじゃないかな?」

何故だろう。

「そんなはずはない」と、にわかに否定出来なかった。
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