私の中にあるモノ
驚いている私に、篠森さんは説明を続けた。

「竜人研究所が出来た当初は、普通の人間に竜の血を混ぜて、後天的に竜人に造り変える実験をしていたの」

…信じられない。

人間を…別の存在に造り変える、なんて。

ましてや、竜に…。

じゃあ、この本に載っていた写真の女性は…。

その馬鹿な実験の結果、「造り変えられた」竜人だったんだ。

私は改めて、身体の半分が人間、半分が鱗に覆われた、あのおぞましい実験の写真を思い出した。

…あれは、そういうことだったんだ。

「その実験は…。…一度でも、成功したの?」

「…残念ながら、すべて失敗したと聞いてるわ。検体の大半は、竜の血に耐えられずに即死した。数名は、何とか延命したけれど…いずれも、三日以内に亡くなったわ」

「…」

じゃあ…あの写真の女性も。

写真を撮られた時点では生きていたけれど、その次の日か…2日後には、もう…。

「竜の血は強過ぎて、人間の器では耐えられないの。投薬や、移植で延命させても…焼け石に水だったそうよ」

「…」

「そこで…竜人研究所では新たに、後天的に人間を竜人に造り替えるのではなく、生まれた時から竜人の…。…先天的な竜人を造り出す、新たな研究にシフトしたの」

…と、篠森さんは説明してくれた。

成程。

先天的な竜人…。…それは覚えがあるよ。

私のことだね。

今、この研究所で造られた竜人は、みな生まれながらの竜人だ。

それもそのはず。

私達がまだ受精卵の状態で、竜の血を混ぜられるのだから。

「この新しい方法に変わってからは、竜人の成功検体の数は飛躍的に増えたわ。…それでも、彼らの寿命は人間ほど長くはない。…その点だけは、どうしても変わらないけど」

「…」

「そして、その新しい方法を確立させたのが、当時、まだ研究所に赴任したばかりの山口教授だったのよ」

「…!…あの人が…」

…そんなに偉い人だったの?

偉そうな口振りだとは思ってたけど。

「彼は異例の早さで、竜人研究所の研究主任に抜擢されたわ。…竜人研究のホープなのよ」

…じゃあ、なに。

私は彼に、感謝しなければならないと?

私を長生きさせてくれてありがとう、とでも?

…馬鹿らしい。

「彼がいなかったら、今でも竜人研究所では、研究が進まないまま…」

そんなことはどうでも良いわ。

「…篠森さん。あなたはどうしてここに来たの?」

「え?」

「あなたも知ってるんでしょ。この報告書に載ってるような…竜人研究所で行われてた、残酷な実験のことを」

「それは…。えぇ、私が参加した訳ではないけれど…。話は聞いてるわ」

そう。

「それなのに、どうして竜人の研究なんかしようと思ったの?」

自分が、そんな残酷な実験に加担すること。

罪悪感を抱かないの。…悲しいことだと、思わないの?

「…それは…。…もちろん、あなた達竜人の検体に、申し訳ないとは思ってるわ」

「…」

「だけど、これは人間の未来の為の研究なのよ。ここで研究することが、やがて、未来に生きる多くの人々を救うかもしれないの」

篠森さんは、強い意志を宿した瞳で、そう言った。

心から、そう信じて疑っていない、という顔だった。
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