私の中にあるモノ
…あぁ、そう。

あなた達は、そうなのね。

…まぁ、でも、仕方のないことなのかもね。

自分が残酷な行為をしている、その言い訳が必要だ。

その言い訳…すなわち、人の命を奪う為の大義名分。

それが、「人類の未来」という…不確かな言葉なのね。

「竜族には、そしてその竜族の血を継ぐ竜人には、無限の可能性がある。…人間にはない、大きな可能性が」

「…」

「かつて人類は、その未知の可能性に怯え、愚かにも竜族を滅ぼしてしまった…。…だから今度は、その十字架を背負って、人類の手で、竜族を蘇らせるの。…その為に、あなた達の命を使わせてもらうの」

「…」

「皆宮さん…。…あなたにとっては過酷な運命かもしれないわね。だけど…決して、あなた達の犠牲は無駄にしないわ」

篠森さんは、そっと私の手を握り締めた。

泣きじゃくる子供を、宥めるような優しさを込めて。

「許して、とは言えない…。…でも、自分の運命を悲観しないで。あなた達は、決して使い捨ての命なんかじゃないから」

「…そう」

篠森さんは、本気でそう思っているようだった。

…本気で、私達の命を大切に思ってる。

ありがとう、って思うべきなんでしょうね。

私の命を無駄にしないでくれてありがとう、私はちゃんと生まれてきた意味があったんだ、って。

だけど、今は。

今の私は、そんな風には思えなかった。

「…」

私は、篠森さんの顔をじっと見つめた。

今の私はきっと、酷く冷めた眼差しをしていたことだろう。

…命を無駄にはしない。そう。

そうやって、あなたは自分の罪悪感を納得させるのね。

そう言えば、失われた命が報われると。

無駄にしなければ許されると、そう思ってるのね。

…だけど、それは大きな間違いだ。

武藤くんや、近江さんの死に様を思い出してみると良い。

最期の瞬間まで、必死に生きようとしていた。

自分の死の運命に、必死に抗おうとしていた。

…そんな彼らにも、同じことが言える?

あなた達が後悔していようと、反省していようと、関係ない。

竜族をその手で滅ぼしておいて、自分達が困ったら、今度はその竜族を蘇らせ、竜の知恵に頼ろうなんて。

あまりにも、身勝手。

人間の問題は、人間で解決するべきだ。…竜になど頼らず。

竜は、人類の繁栄の道具ではないのだから。

「…篠森さん」

「?なぁに、皆宮さん」

「この研究所の中で…6階で、竜が生きてるって本当なの?」

「…」

篠森さんは、驚いて目を見開いた。

そして、驚いたまま、こう聞いてきた。

「…誰がそんなことを言ったの?」

「良いから、質問に答えて」

「…」

無言だった。

言葉に困った篠森さんは、なんと答えて良いか分からない様子だった。
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