私の中にあるモノ
「…」

改めて、夢の中で私は、祖竜と相対した。

彼の瞳には、深い悲しみがたたえられている。

…無理からぬことだろう。

彼が、これまで背負ってきたものの重さを思えば。

…この祖竜、こそが。

私をこれまで、守ってくれた。

時に私の記憶を消し、全てを忘れさせて。

そして彼は…私に、一つの願いを託した。

その願いを、己の使命として遂行すること。

それこそ、私が竜人として生まれた意味…。

祖竜は悲しそうに、私を見つめていた。

竜でもなく、かと言って人でもなく。

人間の身勝手で生まれた、どっちつかずの私に。

祖竜は、憐れみを感じているようだった。

私だけじゃない。

私以外の、全ての竜人に対して。

…だからこそ、彼は私に願いを託した。

これ以上、こんな悲劇を繰り返さないでくれと。

「…いいよ」

私は、悲しそうな祖竜に微笑みかけた。

君も、ずっと一人で頑張ってきたんだよね。

だから、もう休みたいよね。

…私もだよ。

「私が助けてあげる」

君が、ずっと私を助けてくれていたように。

今度は、私が君を助けてあげるよ。

祖竜はそっと、私に近づくと。

その白い手で、私の胸に触れた。

その瞬間、私は、全てを知った。

遠い遠い昔に滅びた、竜族という憐れな種族の記憶。

祖竜の記憶を。

「…そっか…。…そうだったんだね」

私は、何度も頷いた。

君も…いや、君達も、凄く大変だったんだね。

そこまでして…いっぱい、頑張ったんだね。

その上で人間は…そして、竜族は…。

…。

「…分かった。君の願いを叶えるよ」

「…」

「…そんなに悲しそうな顔、しないで」

私は悲しくないよ。全然。

だって、私には意味がある。

生まれてきた意味も、これまで生きてきた意味も。

そして、死ぬ時でさえ、その死には意味がある。

自分の生は無意味じゃなかった。自分の死も、無意味じゃなかった。

そう思えることって…とても、幸せなことでしょう?

だから、大丈夫。

君の望むようにする。

「終わらせてあげるからね。…全部」

私が、そう言うと。

祖竜は小さく頷き、そして。




…その瞳から一筋の涙がこぼれるのを、私は見た。

< 88 / 105 >

この作品をシェア

pagetop