私の中にあるモノ
人間は、竜を滅ぼしてなんかいない。

滅びたのは、竜自身の意志。

人間と竜の差は、あまりにも大きかった。

竜は人間よりもずっと強くて、賢かった。

だからこのままでは、人類は、竜の下位種族として、一生隷属したまま…これ以上進化することは出来ない。

竜がいる限り、人類は決して、繁栄を手に入れることは出来ない。

だからこそ、竜は決断した。

自分達は、世界の表舞台から降りよう、と。

竜が滅びることによって、世界を人間に明け渡そう、と。

巣立つ子供を見送る、親のように。

「竜族がいては、人類は繁栄出来ない…。だから竜族は、自ら滅びることを選んだ。…人間の為に」

「…」

そして、最期に竜族は、「人間が竜族を滅ぼした」という、偽りの歴史を残したのだ。

そうすれば、人間は竜を滅ぼした、人間は竜を滅ぼすことの出来る力を持つ存在なのだ、という自尊心を得ることが出来る。

そして、竜の思惑通り。

人間はこの世界の、生態系の頂点に立った。

人間が竜を滅ぼしたのだと、そう思い込んだまま…。

…だから。

「この世界は、人間ではなく…竜が創り出したものなのよ」

竜がそう望んだから、彼らは滅びた。

竜がそう望んだから、人間は栄えた。

全ては、竜の意志のもとに生まれた結果なのだ。

これが…私の知る、世界の真実。

「…はは」

山口はそれを聞いて、楽しそうに笑った。

「つまり…俺達は、祖竜様の掌の上で踊らされてた訳か。人間の愚かさも、過ちも、竜には全部お見通しだった訳か」

「…そうよ」

「成程ねぇ…。まったく、傲慢な生き物だよ。竜っていうのは…」

人間にとっては、そうかもしれないね。

だけど…。

「竜は、決して人間を見下してなんかいなかった」

むしろ、その逆なのだ。

「彼らは、人類に可能性を見出していた。人間ならば、竜とは違う形で、この世界を正しく導くことが出来るはずだ、って」

人間の愚かさも、過ちも。

それらをすべて含めて、人間を尊重していた。

だから竜は決して、今の…この世界を憂いてなどいない。

彼らはきっと、こう言うはずだ。

人間が統治する、この世界を、「美しい」と。

それで良い。これが正しい在り方だ。

どんな悲劇も、不幸も、決して間違ってなどいない。

すべて竜にとっては、美しい人間の営みなのだから。

…だけど。

「…この、竜人研究所だけは、別」

この研究所の存在だけは。

そして…竜人という、存在だけは…竜の望むものではない。

「祖竜が己の心臓を残したのは、人間が過ちを繰り返さない為。いつか、竜の叡智に人間が辿り着くことを願った…その為に、『竜の心臓』はある」

決して、竜の血を人間に混ぜる為でも。

人間を、竜に近づける為でもないの。

…だから。

「私は終わらせなければならない。これ以上…祖竜が、竜達が愛した人間という種族を…苦しませることが、ないように」

ここで私が終わらせる。…全部。
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